1930年代から1980年代までのヨーロッパとアメリカの歴史を背景に、芸術家たちの人生と家族を描く作品。戦争、ナチズム、冷戦など、歴史の大きな流れに翻弄されながら、芸術や職業人生を開拓しようと奮闘する人びとの姿を描く。親子2代ないし3代にわたる家族の歴史をつうじて、20世紀が描かれる(1981年作品)。
原題は Les Uns et les Autres 。
フランス語の意味を直訳すると「こちらのいくつか、あちらのいくつか」だが、「あれこれの人びと」というほどの意味合いになるだろうか。もっと具体的に物語の内容に即した意味を考えると、「1930年代からおよそ半世紀間の時代をともにした、生まれた国や文化や仕事を異にするさまざな人たちそれぞれの人生の出会い」ということになると思う。
芸術祭での出会いによって、映画に登場する人びとの人生が交差する様子が描かれ、20世紀の半ばの50年間の時代状況が描かれることになる。
見どころ:
フランス人監督、クロード・ルルーシュの作品。
映像物語は、見方によっては退屈極まりないものだが、観る人の現代史への理解の深さが評価を分ける。
現代史に興味のない人、造詣のない人にとっては「退屈極まりない作品」「面白みがない作品」でしかない。だが、現代史を登場人物の人生に重ねることができるほどに、造詣の深い人にとっては、20世紀の断面を切り取った傑作。
たぶん、これがフランス人の洗練されたエスプリ(表現技法)、語り方の巧みさということになるのだろう。彼らにとって、自己主張は自分の人生の尊厳を肯定することらしい。そすると、できごとや事件の因果関係を組み立てることよりも、歴史を織りなす人びとそれぞれのユニークな人生を描き、織り合わせることこそが、歴史の検証ということになるのではなかろうか。
この映画は、激しく揺れた20世紀の動きを、いくつかのエポック(時代)に焦点を当てて、それぞれの時代の世界や地域の状況や世相を背景に、人物たちの生き様を描き出している。
舞台となる都市は、パリを中心として、モスクワ、ニューヨークとロスアンジエルス、ベルリン。
1929年の世界金融恐慌はその後に未曽有の深刻な経済危機・大不況を呼び起こし、危機に対処するために欧米の列強諸国家は世界市場での勢力圏の拡張を争い、自国を中心に閉鎖的なブロック経済圏を形成しようとした。その動きは、主要諸国家の政治的・軍事的対抗を拡大させ、やがて世界戦争へと突入していった。
西ヨーロッパに電撃戦を発動したナチスドイツは、またたくまにフランスを征服し、ユダヤ人狩りを繰り広げた。
一方ロシアではスターリン独裁レジームのもとで「奇妙な社会主義革命」が進み、兵営統制型経済と監視社会ができ上がる。自由な言論や芸術表現は抑え込まれていった。
このような状況を背景に、1930年代から第2次世界戦争終結までの時代、抑圧的なレジームのもとで生き延びようとする芸術家の家族の姿が描かれる。
悲惨な戦争は終わったが、今度は「冷戦構造」が世界を覆い尽くすことになった。冷戦構造のもとで戦争後の復興と経済成長が進展することになった。
1960年代から70年代、第2次世界戦争を体験した芸術家たちの子の世代に焦点が移る。ヨーロッパでは急速な経済成長が達成されたが、戦争の爪痕がまだ残っていた。冷戦が人の運命を変えてしまうこともあった。親と子の葛藤、家族の絆の問題も描かれる。
そして、1981年のパリ。ここで、それぞれの人生が出会い交差する。
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