今回取り上げるのは、エスパーニャ王国の北西端にあるサティアーゴ・デ・コンポステーラをめざす長い巡礼道の旅 pilgrimage の物語。前に特集した作品『サンジャックへの道』でも、フランスからエスパーニャの聖地、サンティアーゴをめざす長い巡礼の旅を描いていたが、ドラマ映画――たぶんTV放送用――『星の旅人たち』(2010年)はこのサイトで取り上げる2つめの物語だ。
フランス各地からエスパーニャ北西部の聖地への旅は、今日、欧米では大変人気のある「歩く旅」コースのひとつとなっている。短い道のりでも800キロメートルで、ひたすら辺鄙な田舎道を歩くこの旅は肉体的は非常にしんどい旅だという。それでも、毎日、世界各地からやって来た何百人ものお遍路さんたちが、足にマメをつくり、腕や足に擦り傷をこしらえながら歩き続けている。
日本でも古くから、弘法大師ゆかりの地を巡る四国の「お遍路さんの旅」がおこなわれている。洋の東西で、元来は宗教・信仰を起源とする同じような巡礼旅に人びとは挑むということだ。
どちらの旅も「楽しい物見遊山」の旅ではなく、ひたすら苦しい修行のような行程を踏む。なぜ人びとは、そんな長い巡礼旅に出かけていくのか。
多くの経験者の話では、自分の人生の来し方を省察したり、悩みについてひたすら考え続けたりする機会、過去の自分と訣別し――挫折の痛みを克服し――て新たな生き方を探す機会になったという。要するに、自分に向き合って人生を見直してみる、そういう旅になるようだ。
『星の旅人たち』では、アメリカの裕福な眼科医が、巡礼への旅の初日に嵐による事故で亡くなった息子への想いを胸に、巡礼の道をたどることになる。それは、息子の生き方を探り、自分の生活スタイルを見直す旅となった。
この物語が映画となったのは、人気のある観光コースとなったという事情もあるだろう。だが、現代人の生き方、仕事のスタイルが、より多くの人びとからは「再吟味」を要するほどにストレスが多くなったことも背景になっているのは間違いない。
映画の原題は The Way で、「道、聖地への巡礼道、生き方、想いの行方……」と意味はたくさんある。レンタル用DVDのパッケイジには副題のように、エスパーニャ語で Camino de Santiago と記されていた。「カミーノ」は「道」という意味だから、この副題は「サンティアーゴへの巡礼道」ということになる。
で、邦訳が「星の旅人」となったのは、巡礼聖地のサンティアーゴ・デ・コンポステーラのコンポステーラがラテン語的に解釈すると「星の野原」「星の広場」という意味になるので、巡礼者は星の野原をめざす旅人であるという解釈によるものかもしれない。
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