著者の略歴

  1955年 長野市生まれ
  中央大学法学部卒業
  早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学
  出版社などに勤務、編集者・記者、翻訳などの職務を経験
  記者=ライターとしての専門分野は、世界経済と国際金融、企業財務など
  現在は、長野の田舎暮らし。

  この論稿は、世界市場的連関のなかに位置づけてヨーロッパの諸国民国家の形成・出現の歴史過程を考察するものです。
  私は大学院時代に、ドイツ・東欧の法制史・国家史の研究のかたわら、資本の世界化(世界市場運動)と国民国家の法体系・レジームとの相互関係の歴史――中世から現代まで――を研究していました。
  そこで気づいたことなのですが、
  ヨーロッパ史を見ると、中世には国境という制度も国家領土、国籍というものも存在していなかったので、実際には、ヨーロッパが単一つのシステムとしての世界市場・世界経済に統合され形成されていく過程のなかで、地方的な政治組織としての領域国家が生まれ、やがて国境体系をもち領土を排他的に支配する国民国家が出現したのです。
  まず国民国家が形成されて「しかるのちに」資本や企業の国際化や世界化が起きたというわけではないのです。

  言い換えれば、多数の国民国家が分立するという独特の政治的・軍事的編成をともなう世界経済が形成されたということです。このシステムのなかでは、貨幣形態での剰余価値すなわち利潤獲得をめざして無数の経営体が競争し合うという資本主義的生産様式が支配的なのです。

  ただし、資本主義といっても、それがどういうものなのかという問いへの答えは、世界システムの視座から見ると、なかなかに難しいのです。マルクス風の規定や性格づけでは大きな限界にぶつかります。
  また、国民国家や国家という仕組み=制度もまた世界経済という文脈で考察するとなかなかに複雑です。とりあえずは、世界経済のなかで独立の政治的・軍事的単位として振る舞う組織という見方ができます。つまり資本主義的世界経済は多数の国民国家へと政治的・軍事的に分割されているシステムであるということです。   「一国的」「一国史的」に眺める場合とは、ずいぶん違う存在様式が見えてくるのです。
  こういう問題意識や疑問を模索するために30年近く前に――博士論文にしようと試み――進めた研究をウェブサイト用の記事として編集しなおしたものです。