《炎のランナー》用語に関するノート 1

このほかの用語解説

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  ウェイルズ公

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エリート、エリート理論

  エリート理論とは、社会で最も優越的または支配的な地位にある階級や階層を「エリート」として把握する理論。
  学説や仮説はきわめて多いが、その多くに共通する見解を強引かつごく大雑把にまとめると、以下のようになるだろう。

エリートの優越・支配の根拠

  エリートは人口構成からみるときわめて少数であるにもかかわらず、政治的または文化的な影響力とか世論では「多数派」をなしている。
  その原因については、
@エリートは、民衆の政治的意見や文化あるいは世論の形成において重要な影響力をもつマスメディアや文化的装置を企業経営者層として所有または管理するか、あるいは多数派株主集団として資本支配していること
Aエリートたちは、学歴とか職歴、結婚、団体活動などをつうじて人脈的または家系的に相互に強く結びついていて、階級ないしは集団として強固な凝集性を備えている。そのため、階級ないしは集団として強く結集して、ほかのどの階級・集団よりも社会に対して強い発言力や影響力をおよぼすことができること
Bエリートは資産や経済力をもとにして、より高い学歴や知的情報・文化を得るチャンスに恵まれている。であるがゆえに、総体的で複合的な知識や視野を身につけることができるので、自分たちの優位を保つための戦略や戦術を巧妙に立てることができること
C そのほかの階級や階層、集団は、マスメディアの影響や経済関係における従属的な地位によって、分断されている。そのため、利害や意見の共通化や結集をはかったり、自分たちの地位を改善したり世論を動かすために政治的に結集するのがむずかしいこと
などが指摘されている。これらの諸要因が互いに相乗効果をもつことはいうまでもない。

  歴史的にみると、中世の秩序から近代国家の秩序への移行過程では、フランスやブリテンなどのように市民革命を経た場合にも、王室や有力貴族層など旧来の支配階級の主要部分が新たな秩序でも支配階級を構成する状況が持続した。その意味では、エリートの支配的地位や優越の構造は長期にわたって構造的に持続している。

エリート内部の対立とメンバーの入れ替え

  とはいえ、エリート内部にも競争や利害対立はある。
  また、長期的にみると、エリート内部の顔触れは変化していく。疲弊して力を失った面々が衰退して姿を消し、新たに成り上がったメンバーが加わっていく。

  たとえば、ある家門が、社会や企業などでの高い地位を持ち富裕であるがゆえに、傲慢になって家門や企業の経営に失敗して没落することもある。また、時代に合わなくなった旧弊な思想に固執したり、自分の個別的で短期的に利害に固執したりして、エリートの多数派と敵対して影響力を失い排除されたりすることがある。

  他方で、エリートは自分たちの優越や影響力、威信を保ち続けるために、新たに顕著な達成によって成り上がった者たちを、選別しながら、エリートサークルに引き入れるようとする。
  彼らを人脈に加えたり通婚により家系的な結びつきを形成するなどして、エリートとしての行動スタイルや規範、価値観などを受け入れさせ、同化していこうと企図するのだ。
  新たな成り上がり者たちは通常、自分の成功や獲得した社会的地位を誇示しようとして、エリート層の行動スタイルや文化、教養を模倣し、エリートの仲間入りをしようと努力する。

  ところで、社会の構造変動や危機に時代にあっては、エリート内部での思想や価値観の相違や対立あるいは競争は激化する。それは、エリート階級諸分派のあいだの政治的対抗や闘争という形で現れる。
  そして、エリートのなかの進歩派ないし開明派が優位を得た場合には、エリートして生き延びるために、状況に合わなくなった価値観や意識、行動スタイル、思想の担い手の代わりに、新たな価値観や思想、行動スタイルを示すメンバーのリーダーシップを受け入れようとする。