大気圏という特異空間

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大気と重力

  私たち地上の生物は、大気と重力をごく当たり前の条件として出現し、進化してきた。だが、大気圏または地球の地表環境とは、宇宙全体から見ると、きわめて特異な空間だ。
  基本的に星や天体の大気圏の外には、基本的に気体分子や塵はまず存在しない。だから、おおよその宇宙空間では、運動(飛行)する物体は、大気による抵抗や摩擦、衝撃を受けることはめったにない。
  もちろん、確率的にはごく稀に、流星群や宇宙塵の衝突、衝撃に出会うだけだ。
  気体分子は「軽い物質」だが、惑星の重力によって地表付近につなぎ止められ、凝縮して大気圏と呼ぶほどの規模になれば、巨大な重量(質量)と凝集力を形成する。

  地上の1気圧の大気の下で、私たちは、身体の表面1平方センチメートル当たり約1キログラムの重量(圧力)を受けている。それゆえ、人類の1人ひとりは、頭や肩、背中、腕などにおいてだいたい700キログラムから1トンくらいの空気の重量を支えていることになる。
  生き物としての人間は、この状態が、地上で「負荷がない状態」として生存している。こうして、大変な大気の重さプラス自分の体重分の重力=質量と圧力を受けることを条件として、生物の細胞や組織器官はプログラムされ再生産されている。
  つまり、こうした条件(重力負荷)が与えられなければ、生物細胞はエネルギーや物質の代謝や交換ができないようになっている。

  ゆえに、ことに筋肉や骨格の細胞と組織(そして神経の作用)は、大気圧や重力を受けないと、正常に新陳代謝=再生産されない。細胞遺伝子のプログラムがそうなっている。
  そこで、人間が1日以上、無重力の宇宙空間に生存すると、その日に再生産された筋肉・骨格組織は正常に機能するものにならない。宇宙飛行士は地球に帰還すると、わずか1週間の宇宙滞在でも、筋肉と骨格の機能が直立や歩行、さらに運動能力を回復するのに、数か月から半年かかるという。回復に何年もかかったり、回復できない場合もあるらしい。
  宇宙空間にいたときに形成された骨格の組織は、すかすかで、生涯、修復されることはないという。

  こうして、大気の塊は外部の宇宙からやって来る飛行物体に対しても、その内部で生存する生物にとっても、きわめて大きな影響力をおよぼす。

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