カプリコーン 1 目次
原題について
見どころ
あらすじ
火星旅行の難しさ
ロケット発射の物理学
オレンジの皮の内側
プロジェクトの政治的背景
直前のアクシデント
政府機関の大ぼら
「SF映画」
謀略の綻び
「幽霊」になった飛行士
燃え尽きた衛星
宇宙飛行士たちの逃亡劇
宇宙飛行士を助けろ
爺さんは歴戦の勇士
幽霊が現れる
作品が問いかけるもの

「幽霊」になった飛行士

  一方、映像の撮影を終えた3人の宇宙飛行士は、撮影セットの隣の仮設室に隔離されていた。彼らは、部屋に置かれたテレヴィで、衛星と地上の家族との会話の場面が繰り返される報道番組を、苦々しい想いで眺めていた。
  そして、いよいよ衛星が地球の大気圏に突入する局面に入った。

  宇宙船が宇宙から大気圏に突入するのは、大きな危険をともなう冒険だ。そのことを私たちは、スペイスシャトルがその突入に失敗して燃え尽きてしまった事故から学んだ。ほんの少数の耐熱タイルが壊れていたことが原因だった。ほんの小さな弱点やミスが命取りになる。

◆燃え尽きた衛星◆

  この映画で衛星の大気圏突入の失敗とは、突入角度が深すぎて大気との摩擦=衝撃によって過熱し、熱と振動で衛星が破壊され燃え尽きてしまった、というものだった。
  突入の角度は深すぎても浅すぎても、衛星に致命的な破壊や衝撃を与える。
  ロケットや衛星などの剛体に比べてきわめて小さな密度をもつだけの大気(気体)や水(液体)も、非常に高速で運動する物体に対して強固な剛体として反作用をおよぼす。
  密度がほとんどゼロに近い真空の宇宙空間に比べれば、大気圏は非常に大きな密度をもつことになる。

  浅すぎる場合は、衛星は外側に跳ね返されてしまう。ちょうど、平べったい石を浅い角度で水面に投げると、石は水面で跳ね返されて浮き上がるという運動を繰り返すように。石は推進力を失うと、重力に従って落下水没する。
  浅すぎるとはいえないほどの浅い角度で突入した場合にも、大気による浮力・揚力をより大きく受けることで、衛星はしだいに重力の方向に対して反対向き(上向き)の力を与えられ、やがて、やはり大気圏から飛び出してしまうという。
  もちろん、適切な角度で突入しても、耐熱装置にわずかな傷があれば、そこから熱破壊を受けて耐熱装置全体が崩壊し、過熱が始まり、衛星は破壊され、燃え尽きる。
  角度が深すぎれば、燃え尽きることがなくても地表に激突することになる。


  地球という天体を周回する円運動は、重力の中心に引き寄せられて落下するという力学と、そこから限りなく飛び去ろうという力学との対抗=均衡状態における運動だ。この円運動の軌道の方程式は、ごくごく単純化すれば、

  《円の半径の2乗》=《正弦の2乗》+《余弦の2乗》

で表されるが、等式を変形していけば、次の方程式になる。

  《角運動量の2乗》=
           《向心力(または重力落下運動量)の2乗》+《遠心力の2乗》

  実際の運動は、ゆがんだり、長円になったりするから、力の焦点は複数になり、離心率や扁平率を考慮して、2乗される数値は偏差を引いたり足したり、変形率を乗じたりするのだが。
  宇宙船は、地球に接近してその周回軌道に入り、何回か周回しながら、ジェット噴射を加減して(飛行速度=角運動量を小さくして)、軌道を安全な突入角度に近づけていく。
  《重力落下の運動量の2乗》>《遠心力の2乗》−《角運動量の2乗》 となるようにして。

  この単純な関数を複合的に応用して、衛星の地球帰還の軌道計算とプログラムの設計がおこなわれていたはずだが、宇宙船の軌道の制御に問題があったのか、はじめから突入角度の計算が誤っていてプログラム設定がまずかったのか。
  映画では、プログラム設計が間違っていたとしているようだ。

  とにかく、3人の宇宙飛行士は消滅(死亡)し、この世に存在してはならない人間ということになった。つまり、彼らは幽霊なのだ。
  テレヴィで事故を知った3人は、このままここにいては抹殺されてしまうと悟り、逃げ出すことにした。部屋の鍵を壊して脱出し、近くの滑走路のリアジェット機を奪って、飛び立った。けれども、飛行機の燃料の残量はほんのわずかだけだった。

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