Das Kapital, Der Staat und Die Stadt in Der Weltwirtschaft

Capital, State and City in the World-Economy

BY　山越　建一

		本文「序章」を読む
	◆第２編　商業資本の世界市場運動と国民国家　を読む

はじめに
  これは《世界システムとしての資本主義》における国民国家の必然性ないし存立根拠について研究する国家論（国家史）に関する論考です。つまり、ヨーロッパ中世後期から世界市場的文脈――商業資本の世界市場運動の文脈――のなかに位置づけて統治体制や軍事構造の変容を追跡することで、国民国家の形成史を読み解こうとするものです。
  これまで国民国家というものはあたかも「自明の所与なるもの」としてあつかわれ、それがなぜ、いかにして生成してきたのかという問題は等閑視されてきました。しかし、国民国家が近代に特有の存在であるとするなら、それが生成されてきた特殊な歴史的状況・条件を解明しなければなりません。
  国民国家を自明・所与としてその存立の歴史的条件を問わないという態度は、無自覚のままに近代資本主義に特有のイデオロギーにすっかり拘束・束縛（呪縛）されてしまっているということを意味します。とはいえ、なぜ、いかにして国民国家が出現し、存在するのかという問題は、問い始めると、底知れない深さととてつもない広がりをもっています。
  私はここで、国民国家の存立根拠・存在条件を問う前提として、資本主義を世界システムとして捉えるという方法を措いていますが、そこには資本主義という歴史的な社会システムについての見方について、国民国家の形成という歴史的過程の考察をつうじて根底的・批判的に問い直すという課題意識が含意されています。
  たとえばブリテンについての実証的な政治経済史研究は、じつは「産業資本主義」なるものが存在しなかったことを明らかにしました。ブリテンの社会的＝経済的再生産や国家統治ないし政治権力において産業資本が支配的であったことは、一度もないのです。そしてまた、世界経済の帝国主義的編成は大航海時代から構築されてきたもので、19世紀後半からの産業資本の独占化ないし寡占化の傾向（独占資本主義）から満足に説明できないことも検証されています。
  私はそのような文脈で、マルクスの『資本』を批判的に読み直し、その理論的・方法論的限界（一面性）を画定したうえで、多数の国民国家が存在するという資本主義的世界経済の構造が、なぜ、どのように形成されてきたのかを解明することで、国民国家の存立根拠・存在条件を究明しようと試みたのです。諸国民国家の形成史の分析をつうじて、資本主義についての「トータルなイメイジ」を組み換えてやろうと企てたのです。
  そういう研究をしていたのはもう40年近くも前のことです。とはいえ、その頃の私の研究の水準を超えるものはまだないようです。そこで、若手研究者に資料と刺激を与えようと企てて、若干の補正を加えて、その論稿をウェブサイトで公表することにしました。