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『資本』での用法

  社会構成体 Gsellschaftsformation (または経済的社会構成体 ökonomische Gsellschaftsformation )という語は『資本』でも頻繁に登場する。なかでも用語法の頻度が高く特徴がよくい現れているのは、「第4篇 相対的剰余価値の生産」から「第7篇 資本の蓄積過程」の部分だ。
  このようなところでは、資本主義的生産様式それ自体の歴史的発展――手工業、農村家内工業、マニュファクチャー、機械制大工業という発展経過――とか歴史的特徴を説明する文脈や、それが支配的な社会での生産過程ないし労働過程の編成形態、搾取の方式などを説明する文脈で用いられている。
  
  マルクスが分析の具体的対象としていたのは、主に17世紀から19世紀までのイングランドで、これにフランスの事例が加わっているようだ。つまりは、特定の国民社会の内部での事象を分析して、資本主義的生産様式が支配的な社会システムにおける生産過程の編成と運動の基本的傾向を描き出しているのだ。
  とはいえ、マルクス自身が言うように、《全商業世界を一国民からなるものと見なし、資本主義的生産様式がいたるところで確立されあらゆる生産部面を征圧している》――世界市場の諸国民国家への分割を度外視している――という論理構成を前提して叙述している。したがって、上記ような文脈では、社会構成体は抽象的な世界経済としての社会を意味していることになる。
  『資本』のこれらの部分では、マルクスは、社会構成体という語の代わりに「資本主義的生産様式の社会」、「資本主義的生産様式が支配的な社会」、あるいは単に「社会組織 Gesllschaftsorganisation 」という表記を用いている。

  彼は、大工業経営様式――ほかの部分では大工業生産様式、機械経営――による相対的剰余価値の生産が資本主義的生産様式の最も発展した形態と位置づけ、家内手工業やマニュファクチャーなどの経営様式をその再生産体系に包摂し支配していく傾向を説明している。
  彼の叙述では、家内手工業もマニュファクチャーもすべて資本主義的生産様式に属する生産形態(経営様式)であると位置づけている。この文脈からは、彼が想定する社会のなかでは、資本主義的生産様式の最も支配的要素としての機械制大工業が多様な経営様式を包摂・支配している仕組み・構造・体系が形成されているということになる。

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