映画《炎のランナー》の社会史 目次
スポーツと階級格差
イデオロギーとしてのアマチュアリズム
挑戦を受けるブリテン
異端の挑戦
エリート内部での世代格差
エリート・キャリアの1部門としての芸術・芸能界
メリトクラシーとしてのプロフェッショナリズム

◆エリート内部での世代格差◆

  さて、ハロルドがケンブリッジの学寮でアンドリュウ・リンゼイと出会い、やがて生涯の親友となる。アンドリュウは侯爵の子息で、王族と遠い血縁のある、ブリテン最大の貴族家門の若き当主である。

  彼がハードル競技を練習するのは、広壮な城館の周囲に広がる大庭園だ。その庭園の敷地は、地平線の彼方まで続いている。
  彼の家族はそれぞれに専門の運転手つきの高級自動車を保有している。当時のヨーロッパで、高級自動車を持つということは、今、個人でジャンボジェット機を持つことよりも金のかかることだった。

  彼は、かつては経済的支配の世界帝国を築いていたブリテンの権力が没落していく現実を目の当たりにして育った。
  それゆえ、世界的規模でのブリテンの権力衰退に対応して、国内エリートの結集・凝集形態や権力の運営スタイルを組み換え、転換しなければならないという課題意識(使命感)を持っている。新たな世代のエリートである。
  これまではスーパーエリートの周囲にいながら、インナーサークルから排除されていた階級のなかから、資質と能力ある者を迎え入れて、エリート階級の権力・影響力を再構築しようと考えている。それは当然のことながら、形ばかりで無能な貴族層をエリートから追い出すことにもなる。
  だから、ハロルドやリデルの自己主張に寛容である。

  そういう状況にあって、アンドリュウらの新しい世代は、少なくともブリテン内部では、従来は異端派として排除されてきた層のなかから新たなエリートを育て同盟しようと指向していたのだ。
  それは、ブリテンの世界的な権力の衰退という状況に適応しながらエリートの権力や威信を永らえさせようとする発想や戦略をもつ、新世代のエリートのセンスかもしれない。

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