アニメだから荒唐無稽な物語。そのとおりです。
ですが、フィクションをつうじて、真実(信実)というか、人生のなかで大切な価値をもつものについて、暖かく力強いメッセイジがあります。
キキは13歳になったばかりの少女。魔女です。
が、魔女たちは、この世界では、ちょっと一風変わった特技をもつ人びととして、「普通の人びと」のなかに溶け込んで暮らしています。
互いに個性の違いを尊重し合う(というよりも当たり前のものとして普通に受け入れる)世界なのですね。
違いや個性の差を理由にして、排除とか差別とか「いじめ」をすることのない社会です。
キキは、魔女の母親と普通の父親の娘として生まれ育ちました。
そのキキは、突然思い立ったように、わずか13歳で独り立ちの旅に出るのです。魔女の世界では、13歳で始める修行は、おとなになるための通過儀礼なのです。
両親も近所の人たちも、少しは心配するものの、だれもこの冒険に出るのを引き止めません。
少女キキを1個の自立した人格としてだれもが尊重し、その選択=決心を尊重します。夢中になることがあったら、気のすむまでやってごらん、という態度です。
そういう冒険で失敗しても、そのことがキャリアや個性のマイナスにならない風習の世界だからですね。
キキの両親は、娘に、聞き分けのよい(従順な「優等生」)であることを全然求めていません。
素直で自分の心に正直に生きることを求めているようです。それでも、キキが人を傷つけたり欺いたりしないことも知っています。自分をごまかさない。そういうふうに躾けたのでしょう。
その分、キキは思い立ったら走り出すタイプの少女です。
今度の週末に父親たちとキャンプに行く予定だったのに、「今夜はよく晴れた満月になるから」といって、突然出発を宣言します。
両親のすばらしさは、キキを「自分の1人」の足で歩き出す魔女修業の旅に喜んで送り出したこと、つまり、キキが自分で人生の歩む道を選択し、壁にぶつかったり、悩んだり、失敗するチャンスを与えてやったことです。
やたらに「転ばぬ先の杖」を出してやって、体裁よくし、世間体をよくし、あるいは無難な「型どおりの優等生」の道を用意しよう、とは少しも考えていないのです。
学校のテストで良い点を取ることとか、先生からよい評価をもらうこと(それも大事でしょうが)ではなく、年相応に(どんなにつたなくても)自分の頭で考えることを大切してきたのでしょう。
あるいは、いま自分で考える材料や方法を見つけ出すこと、思いつきでも正しいと信じるならば、まずやってみること、挑戦すること、結果を気にしないこと。
そんなことを自然体で習い覚えるようにしてきたのでしょう。