『フローレス』の歴史的背景 目次
この記事のねらい(緒言)
「双子のモンスター」
マルクスの限界を超えて
エドワード・ロイドのカフェ
競争に勝つための情報
貿易航海保険・海事保険の発達
ダイアモンド利権の独占へ
ボーア戦争
ライヴァルとの競争と融合
 
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この記事のねらい

  この映像『フローレス』(原題)の物語がどのような歴史的・社会的文脈を背景として描かれたのかを探るために、ここで巨大ダイアモンド商社とロイズ保険協会との関係を社会史の視座から跡づけてみよう。

  オーソライズされた日本の歴史教科書では、50年間この方「イギリスは『世界の工場』となった」と平然と記述されている。しかし、『フローレス』の歴史的背景を探っていくと、教科書のこの誤った説明とは裏腹に、「世界の工場」にはなろうとしなかったブリテンの世界市場支配のメカニズムの一端が見えてくる。
  つまり、「世界の貿易商人」「世界の金融商人」としての苛烈な植民地支配と抑圧、そして資源供給の独占体制が見えてくるのである。
  たしかにブリテンが「世界の工場」になりかけた時期はあった。ところが、世界に工業製品やプラントを輸出する貿易・金融体制ができ上がり始めると、ブリテンは工業品の製造ではヨーロッパ大陸諸国家や合衆国に後れを取るようになった。ブリテン国家の支配層、ブリテン資本の中枢がそのような道を意図的に選択したというべきだろう。

■ブリテン資本の世界支配と「双子のモンスター」■

  映像物語のなかに登場する世界最大のダイアモンド商社は、実際にはロンドンのデビアーズ――日本市場では「デビアス」と表記――という世界企業だ。
  そのダイアモンド(原石と製品)の世界貿易や商取引のリスクを保険制度による損害補償という面でカヴァーしているのが、ロイズ保険協会、言い換えれば、シティの金融資本だということになるらしい。
  この2つは、かつてはブリテンの世界覇権と植民地支配をリードする巨大資本グループのなかでも最有力のメンバーだった。それはいわば「双子のモンスター」あるいは「双頭のモンスター」の2つの顔だった。

■ブリテン資本の権力構造の特殊性■
  世界経済のヘゲモニーの交代劇という点では、20世紀のはじめにまでパクス・ブリタニカの世界的権力機構は衰退し、それにパクス・アメリカーナの権力体系が取って代わった。だが、世界的規模で巧妙に構築されたブリテン資本の金融的支配の仕組み・ネットワークは、その後も、目立たないけれどもときにはアメリカ資本を凌駕するほど力強く機能し続けてきた。

  ブリテン(ロンドン)に経営本拠を置く有力な世界企業もいまだに数多い。食品化学や石油化学などのトップ製造企業もヨーロッパでは最大の権力を保有している。
  そのような資本の世界的権力としては、たとえば、つい先頃までにメヒコ湾に原油を垂れ流していたブリティッシュ・ペトロリアム、ほかにロイヤル・ダッチ・シェル、ユニリーヴァー(食品・化学)、フィリップス(電機・電子機器)などの巨大コンツェルンを見よ。シティー・オヴ・ロンドンに本拠を置く金融企業群もまた隠然たる権力を保有し続けている。
  世界支配の前面に立つアメリカの資本と国家――とりわけ軍事的プレゼンス――の背後に隠れながら、世界金融の組織化・誘導にかかわる権力は、むしろシティ・オヴ・ロンドンの金融資本の方がアメリカ資本よりも優れているようにさえ見える。「安全保障タダ乗り」の度合いについては、日本よりも断然上にある。

  そのような脈絡から、私は、18世紀半ばから現在までの世界経済の権力秩序を《 パクス・アングロ=アメリカーナ pax anglo-americana 》という呼び方で、1つの連続した構造=過程としてとらえている。英語を話す支配者たちの権力構造として。
  もとより、ブリテンは国民国家としては強大な合衆国に比肩すべくもない。小さな島国でしかない。だが、問題は「資本の権力」の力量なのだ。国民・国家としては貧弱なのだが、資本の権力としては、貧弱な本国とその民衆を見殺しにしてもなおかつ世界市場で優位なる権力を保持し続けるその奇妙な存在こそが、ここで追究すべき対象なのだ。

  ブリテンの国家装置は本国市場内では主権を握っていて、またブリテン金融資本の世界市場運動を政策的に支援するとはいえ、金融資本それ自体の側の精妙に仕組まれた権力ネットワークは、国家による――課税や法的規制などという形態をつうじた――コントロールの射程範囲をはるかに超え出ているのだ。

■多国籍化の先駆として■
 そして、ブリテンは国民国家としてはヨーロッパのなかでも弱体な方である。産業=製造業全般で見れば、むしろ辺境化してしているとさえいえる。ところが、ブリテン(ことにロンドン・シティ)に基盤を置く多国籍資本は、巨大な権力装置・経営組織を世界的規模で編成している。
 つまりは、トランスナショナリゼイション、多国籍化が非常に進んでいて、〈資本の権力〉と〈国家の権力〉は大きく乖離しているのだ。
資本の世界的権力は、もはや国民国家の力には照応・反映しなくなっているわけだ。
 そのような状況は、ブリテンの前に世界経済のヘゲモニーを掌握したネーデルラント資本にも当てはまる。この2つの資本グループは、アメリカ合衆国の政治的・軍事的ヘゲモニー装置、アメリカ最優位の世界秩序のもとで、世界的規模での権力を脈々と保持し続け、あまつさえ拡大してきた。
 この2つのグループは、16世紀以来、つねに国民国家よりも先駆けて国内に権力基盤・権力装置を築きながら、いちはやく世界市場で運動して権力体系を築き上げてきたのだ。
 国家の中央政府はときには、資本の権力を国家装置のコントロールや規制のもとに取り込もうと試みることもあったが、ついに成功することはなかった。

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