ボーン・アイデンティティ 目次
CIAの暴走
原題と原作について
あらすじ
長く複雑な物語シリーズ
ボーンとは何者なのか
テロリスト・ジャッカル
虚構の人物
漂 着 者
手がかりへの細い糸
ツューリヒで
逃亡、そして潜伏
パリでの攻防
トレッドストーン
ボーンの反撃準備
トレッドストーンの崩壊
ニューヨークでの対決
事 後 談
謀略と暴力のアリーナ 国際政治
ポスト冷戦の時代
理想なき現実の時代

CIAの暴走

  この作品は、ジェイスン・ボーンという暗殺者の物語だ。2002年にリメイク版が制作公開され、かなりの評判を得た。これは1988年のテレヴィ・ドラマ作品で、原作により忠実に映像化されている。
  ところで、ジェイムズ・ボーンという人物は、CIAがある作戦のために仕立て上げた虚構の人物で、主人公はその虚構の役割を演じるべく改造され、育成された別人なのだ。
  話の筋はおそろしく複雑で、映画の物語を理解することも容易ではない。
  2002年リメイク版に続いてシリーズ化されて『ボーン・スープレマシー』『ボーン・アルティメイタム』が制作された。時代背景として現在(1990年代後半以降)の状況を想定していて、状況がかなり違っている。また、物語そのものもかなり大幅な変形=脚色がされている。
  とういうのは、すでに冷戦体制はなく、今日のテロリズムの実態の前にカルロスなるテロリスト像は描きようもないからだ。
  そして私自身、リメイク版シリーズを観ていても、物語も背景にあるプロットもなかなか見えてこない。原作を読んでいるのにもかかわらず・・・だ。
  というのも、原作の物語とプロットの設定自体が非常に広大かつ複雑で、容易に理解を許さないからだ。日本語訳の文庫本にして3000ペイジを超える分量なのだ。
  ここで取り上げたのは、原作そのものに忠実に映像化されたドラマを紹介することで、物語の筋立てを把握しやすくして、リメイク版を理解するための土台を提供しようと考えたからだ。

原題と原作について

  原題は Bourne Identity 。日本語にすれば、「ボーンの人格」「ボーンの自己意識」「ボーンという人物の正体」とでもなろうか。ここで取り上げるのはDVD化された作品で、合州国で制作放映されたテレヴィのドラマシリーズ番組を編集したもの。
  原作は Robert Ludlum, Bourne Identity, 1980 (ロバート・ラドラム著、『ボーン・アイデンティティ』、1980年)。新潮文庫では『暗殺者』として翻訳版が公刊された。
  先頃取り上げた『コンドルの3日間』は、社会派作品として、国家装置としてのCIAという組織に内在する危険を提起した。
  これに対して、ロバート・ラドラムの小説《ボーン・シリーズ》は、合州国の情報機関や軍組織では、内部での派閥闘争や権力闘争はしごく当たり前のことで、権力や権限の濫用・逸脱としての突出や暴走は必然的に発生しているものだという認識を、いわば所与の前提として、物語やプロットを組み立てている。
  そうした視点から、CIAや軍などの国家組織がかかわる謀略や暗闘を、ダイナミックに描き出している。

  ラドラムが描いたのは、1970年代末のアメリカと世界の状況を背景とする物語だ。このシリーズの物語の全体像を把握するのは大変だ。
  原作の物語そのものが、面白いがかなり難解かつ分量が膨大なのだ。背景や事件、謀略の構図は非常に入り組んでいて、描かれる事件は世界的規模、登場人物も多い。彼らの言動や心理の描写もじつに精緻で、これまた複雑に書き込んである。
  おりしも、その頃――1970年代末――から、英語圏の出版界では、書籍の定価すなわち売上げ単価を大きくし、また著作者の印税収入も増やすために、ヴォリューム(ペイジ数)をとにかく膨らますという編集方針=マーケティング政策が展開されるようになった。話を複雑かつ広大にし、大がかりにする傾向が強まった。
  そういう経済背景もあるのだ。

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