シェーン 目次
消えゆく辺境
大農場主vs小農民
孤高の戦士と農民
「さすらう用心棒」
『シェイン』が提起したもの
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孤高の戦士ファイターと農民

  シェイン自身の過去については、映画ではまったく語られない。流浪するガンマンがたまたま窮地の追いつめられている農民家族のもとに立ち寄って親しくなり、その家族を守るために一時「用心棒」になるという筋立てだ。
  《虐げられ、圧迫された農民を守る用心棒》という役回りを主人公にするストーリーは、後年、日本の黒澤明の「七人の侍」にも援用された。この映画は世界的に評価され、ヒットした。そのため、やがて「マカロニウェスタン(イタリア西部劇)」に受け継がれる。
  そこには、大地に根を張って額に汗して労働する農民民衆と、用心棒となるヒーローとのコントラストが描かれることになる。用心棒となるファイターは、そんな農民・民衆の平穏な生活を切望しつつも、彼らを守るために闘う能力を修練したプロフェショナルとして理不尽な暴力集団や権力者との戦いに臨むことになる。

  さて、流れ者シェインを呼びとめて雇うことになったジョウは、初老とも呼べるような年齢の屈強な農民だ。妻のマリアンとは年齢がかなり離れている。苦労の果てに農地を持つ見込みができて生計の見込みが立ったので、年若い妻をめとったのだろう。これは、開拓期に多く見られた家庭形成のパターンだという。
  そんなジョウは、ガンマンだが心の底に強さと穏やかさを併せ持つシェインの性格を見抜いて引きとめ、自分の助手として雇うことになった。やがて、若いシェインを自分の弟のように懇切に扱う。
  水面を漂う根なし草のように漂泊の生活をしてきたシェインは、ジョウとの信頼関係を築きながら、銃を捨てて農民として土地に定着した暮らしをしてみようかと考えることになる。額に汗する労働で稼ぐ地道な生活を。


  ジョウとシェインとの信頼関係、そしてシェインの心の変化は、農場に残されていた巨木の根――切り株というよりも自然の森林火災で燃え残った根株のように見える――をこの2人の男たちが力を合わせて引き抜くシーンに描かれている。
  そして、シェインはジョウイ少年からも強く憧れられ、慕われる。シェインは、そんな善良な農民家族を心から気に入ったようだ。
  それは、孤独なガンマンとして殺伐な生活を送ってきたであろうシェインにとってははじめての経験だったかもしれない。

  一方ジョウは、ライカー兄弟の狙いが自分に向けられ逃れようがないことを悟ると、年若い妻をシェインに託そうとさえ考える。というのも、妻のマリアンは、小柄だがハンサムなシェインにかすかな憧れを抱いているように見えたからだ。
  ところが、マリアンの気持ちのなかでは、シェインに対して憧れよりも正体のわからない者に対する畏怖の方が強かったようにも見える。シェインの温和だがどこかに人を寄せ付けない雰囲気と、ガンファイター特有の敏捷さや――暴力に対して少しも怯えることなくクールに闘争を挑む――強さに対して、女性としての距離感というか懸隔を直感していたのだ。
  そういう気持ちは、息子のジョウイのシェインが銃の撃ち方を教えたことに対する非難めいた言葉に現れている。
  だが、当時の西部の辺境に生活する人びとのあいだでは、武装自衛は社会の秩序と自分たちの生活の安全を守るための条件だった。だから、シェインはジョウイに銃の射撃の仕方を手ほどきしたのだろう――西部の男として生き延びる術を教えようとして。

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