ある夕方、ヴィンセントが家の裏庭でバスケットボールの練習をしているところにサムがやって来た。サムがヴィンセントに挑む格好でゲイムが始まった。1つのバスケット・ゴールの前でボールの取り合いとシュート争いをするゲイムだ。始めてみると、サムは年齢の割に高い技術を持っていた。ヴィンセントのオフェンスを片端から阻止し、逆に得点をあげ続けた。
ヴィンセントは――高校のティームのレギュラーだというプライドもあって――弟に負けるわけにはいかないとむきになったことから、サムが突き飛ばされて倒れてしまった。たまたまその瞬間を見た父親がヴィンセントをたしなめた。とにかくサムを保護しなければという思いにとらわれていて、状況を冷静に見ることのない一方的な叱り方だった。
で、ヴィンセントは嫌気がさしてしまった。
一方のサムもまた、両親が兄弟を不公平に扱っていると感じた。自分が過剰に保護されているため、ヴィンセントとの関係がなお一層ぎこちなくなったと感じたのだ。
サムは、そんな気づまりな状態で数日過ごした。鬱屈がたまってすっかり気が滅入ってしまった。やはり10年間も離れていた――いっしょに暮らしていない――「家族」のなかにいるのは、息苦しくて仕方がない。
というわけで、サムはある日、カッパドーラ家を出て、もとの自分の家(カラス家)に戻ってしまった。
残されたカッパドーラ家の3人は、気まずい思いをすることになった。というのも、サムを自分たちの家族にしようとして無理をしていたからだ。というよりも、サムと家族としての関係を回復するためにどうすればいいのかわからないうちに、サムが気まずくなって出ていってしまったのだ。
元の自宅に帰ったサムは、悩みを元の父親ジョージに打ち明けた。今でもわが子としてサムを深く愛しているジョージは真剣に相談に乗った。どうすればサムが幸福になるのだろうかとジョージは知恵を絞った。
それから数日がたった夕刻。
カッパドーラ家にジョージ・カラスが訪れた。彼は強い口調でパットとベス、そしてヴィンセントに向かって言い放った。
「先週からサムがわが家に戻ってきている。あなた方家族と暮らすことにすごく苦しんで悩んで、いたたまれなくなって、この家からわが家に帰ってきたんだ。
私はサムを自分の息子として深く愛している。だから、手放したくはなかった。
けれど、あの子の幸福を考えて、本来の家族に戻すべきだと決断したんだ。
ところが、あの子はこの家に来てから苦しんで傷ついてしまった。そして、我が家に戻ってからずっと、この家には戻りたくはないと言い張っている。
だが、私はあの子に言った。この家に戻れと。
だから、あの子の立場を考えて、傷つけないようにしてくれ。君らが本当の家族なんだから……」
そう言うと、扉の外に待たせていたサムを家のなかに呼び入れた。