フランクは、捜査の経過を報告するためにグザビエーの自宅を訪問した。
グザビエーの妻、マドレーヌを見舞うことも訪問の目的の1つだった。マドレーヌは、数年前から重い病気(脳腫瘍か)にかかり、いよいよ末期症状を示すにいたっていた。
マドレーヌは、フランクが26年前にパリから逃れる以前、つまり、まだ若かったグザビエーやルネらと組んでパリの組織犯罪と闘っている頃からの親しい友人だった。あるいは、フランクの恋人だったかもしれない。
その日、マドレーヌは気分が悪くてベッドに伏していた。だが、フランクの顔を見ると、顔を輝かせた。そして、若い頃を回想して懐かしがった。
「私の命はもう長くないの。だから、ときどき訪ねてきてほしい」
マドレーヌはそう告げた。
弟のルネが逝き、今またグザビエーの妻、マドレーヌが旅立とうとしている。寂しさとともに、フランクは、30年近く前にパリ警視庁の若い敏腕捜査官3人組の1人として活躍していた頃を思い返した。痛みや疼き、苦い思い出とともに。
まもなくマドレーヌは亡くなった。
ところで、フランクはやがて病床のマドレーヌから、フランクが海外に脱出したのち、同棲していた恋人――マフィアによって惨殺された――が女児を出産していたことを聞いた。
ルネを失った今、血縁者がひとりもいなくなって天涯孤独になったと思っていたら、娘がいたのだ。だが、その娘は、母親の暗殺のあと、行方不明になっていた。
その娘、ニーナ・リッツィとフランクは偶然出会うことになる。
若い女性が、同棲していた男性のドメスティック・ヴァイオレンスから逃れようとして警察に保護されたのだ。その若い女性がニーナだった。妊娠していた。
フランクは、ニーナの身の安全をはかるために、昔の恋人カトリーヌにニーナの身を預けた。そして、やがて、ニーナの同棲相手で妊娠している子どもの父親が誰かを知ることになった。
皮肉なことに、ニーナが逃げ出してきた恋人とは、マクシーム・ロッジャだった。
フランクはニーナの身を守るために、彼女をカトリーヌのもとに預けた。やがて、ニーナは出産した。フランクの孫ということになるが、マクシームの子どもでもあった。
ニーナが出産したという情報は、ロッジャ・ファミリー(マクシーム)にも伝わった。ほかに子どものいないマクシームは、ファミリーの金融帝国の跡継ぎとしてニーナの子どもを奪おうと画策する。それは、フランクと敵対するということを意味した。
こうして、フランクはロッジャ・ファミリーとの闘争により深くはまり込むことになった。