1979年、マイケル・コルレオーネは、ファミリー・ビズネスの闇の事業からの離脱を追い求めていました。
金融グループをファミリーの裏事業から完全に切り離し、その中心組織をコルレオーネ財団(基金)として独立させ、合法的な投資事業を営む企業グループ=コンツェルンに仕立て上げようとしていたのです。
財団は、コンツェルンをつうじて信託投資をおこない、教育・文化、福祉・慈善事業の資金的支援や育成をめざす国際的事業体になるべきものでした。
この時点でマイケルの金融事業は、非合法の裏ビズネスや賭博やカジノなどからは完全に切り離されていました。しかし、マイケル自身はファミリーのドンの地位にあって、シンディケイトとのつながり、人脈はまだ絡みついていました。
マイケルの終生の目標、執念になっていたのは「ファミリー・ビズネスの合法化」で、それは多分に贖罪の意味が込められ、精神的には自分の魂の救済を求めているように見えます。
魂の救いのために、ヴァティカンに長年、多額の寄付を続けてきたともいえます。
それもあって、また他方には金融事業の国際戦略もあって、マイケルはヴァティカンに長年、多額の寄付を続けました。
その功績を認められて、この年、教皇庁から「信仰擁護の騎士」勲章を授与されました。いってみれば、ヴァティカンの最下級の貴族に列せられたことになります。
マイケルはマフィアとの直接的な接触を断ち切り、金融ビズネスや慈善活動などで社会的地位の階段を登ってきたのです。
しかし、再会した元妻のケイから、「あなたは、社会的地位を得て、マフィアだった頃よりもずっと危険な存在になっている」といわれてしまいました。
その叙勲式典をきっかけに、マイケルはケイとその(再婚した)夫によって育てられた実の子どもたちと再会し、壊れた関係を修復しようとします。
コルレオーネ財団の理事長(総裁)には娘のメアリーを就任させ、完全に合法の事業として経営していく方針を示しました。
ところが、息子アンソニーは、マイケルの願望には沿わずに、法曹の道を捨てて声楽家の道を選択しました。マイケルは、はじめは反対するのですが、やはりわが子、アンソニーの成功への道を開拓すべく努力したようです。
新人のデビューとしては破格ながら、アンソニーはシチリアのパレルモ歌劇場でオペラ「カバレリア・ルスティカーナ」の主役に抜擢されました。
ところで、マイケルの叙勲式典と祝賀会には、偶然、甥のヴィンセントが訪れました。
彼は、現在のボス、ジョーイ・ザザといさかいを起こし、その仲裁を頼むという形で、マイケルの許に身を寄せたのです。
しかし、彼はジョーイ・ザザを尖兵とするコルレオーネ・ファミリーへの攻撃の陰謀を察知して、ザザの許を離れ、マイケルに接近したのでした。
一見、マフィアのファミリーどうしの抗争、勢力争いに見えますが、じつはおそろしく底深い謀略の発端にすぎませんでした。
さて、監督のフランシス・コッポラは本来、舞台芸術監督、演劇やオペラの舞台美術の監督でした。
壮大なスペクタクルやアクションシーンを見せるというよりは、せりふや会話、人物の動作や表情によって、背景の広がりや事件の奥深さを観客に示唆する、考えさせるという演出が得意です。
この「ゴッドファーザー V」では、コッポラ監督の舞台美術監督としてのキャリアが存分に発揮されています。
その分、描かれている事件の広がりの大きさ、奥深さに比べて、映像が地味です。
犯罪=謀略の構図は、会話や室内シーンなどの狭い空間での演技のシークェンスの連続によって暗示されます。
つまり、背景を読む力がないと、映画としての物語や起承転結が理解しにくい作品に仕上がっています。