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すでに見たように、北アメリカ大陸ではだいたい16世紀から、大西洋の対岸、ヨーロッパとアフリカからの多様な移住者たちの集団によって地方社会が形成されてきました(アフリカ人たちはほとんど奴隷として強制的に移住させられたのですが)。
20世紀の半ばまでは、合州国の各地には、移民たちの出身母国の言語や文化、宗教、慣習を土台としながら独特の変容を経てつくりあげられた「特有の地方社会」が成り立っていました。
たとえば、ペンシルヴェニアのドイツ系移民社会、これは映画《刑事ジョン・ブック》の主要舞台となったアーミッシュ村として有名ですが、現代文明への依存を極力抑制した、厳格なプロテスタントの地方社会として有名です。
《フレンチ・コネクション》に登場したルイジアナや五大湖周域のフランス系移民社会もあります。
シャーロット・マクロードのユーモア犯罪小説に登場するのは、デラウェアからメアリーランドにかけてのスウェーデン系移民社会です。
ほかに、消防士ものや刑事もの映画に登場するニューヨークそのほかの都市にあるアイアランド系社会。シカゴのポーランド系移民社会も有名で、そこからは有力な政治家や軍人が出ています。
そして、非ヨーロッパ系移民社会として有名なのがチャイナタウンで、これは当初の太平洋岸諸都市からアメリカ各地に広がりました。
マフィア(コーザ・ノストラやユニオン・コルスなど)や裏社会の組織が、まずはじめに地方ごとに異なる人種的・民族的基盤を固有の苗床として成長していったのも、そんな背景があります。
さて、16、17世紀以来、こうした移民たちによって各地方に集落( towns, villages, boroughs )がつくられ、それらの集合・合体のなかからあちこちで特有の行政的・政治的まとまりをもった市や郡(cities, counties)という単位で自立的な地方政府(local governments)が組織され、やがて植民地圏ごとに州政府と州議会が制度化されました。
日本の教科書では、18世紀後半から末にかけての独立闘争で北アメリカがまとまった1つの国家になったかのように書かれています。ところが、独立戦争の頃は、各州がそれぞれ別個にイングランドと戦い、統一的な国家をなしていたわけではありません。
もちろん、大西洋岸の諸地方は、徐々に貿易や分業関係によって経済的なまとまりをつくりあげていたのですが、各州はそれぞれ政治的・軍事的には独立の政治体として振舞っていました。
各州は、それぞれに独自の法制度(税法、軍法、行政法、民法など)をつくっていました。
しかも、各州の内部でも、地方ごとの独立性はきわめて高いものでした。
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