ゴッドファーザーとアメリカの歴史 目次
1 移民たちがつくったアメリカ
2 地方社会の強い独立性
地方社会の強い独立性(続き)
国際条約としての憲法
身分格差を持ち込んだ議会
3 地方社会とマイノリティ
4 地方の自立性と利権
5 一種の国際社会の連邦
6 マフィアと連邦国家の癒着の例
7 「開かれた社会」としてのアメリカ

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  かつてアメリカでは、地方ボスは「君主」といってもいいほどの権力=権限を持っていた。その代わり、財源も国家には頼れず、自分でまかなっていた。
  それゆえにこそ、とてつもない利権を束ねていた。それゆえ、地方ごと、州ごとに国政顔負けの利権闘争・政治闘争も発生した。

3 地方社会とマイノリティ

  というわけで、すでに富と権力の格差が歴然となっているアメリカに「遅れてやって来た移民たち」は、地方的に結束して自己防衛システムをつくらなければならなかったのです。
  こうして、政治的にきわめて戦闘的で自らの権利擁護・拡大に熱心な団体や組織、地方政府が続々と生まれていきます。

  貧しく虐げられた母国の過去から逃れようとして新世界に来た彼らは、このアメリカの地で新たな格差に直面したのです。生きる知恵と策略、したたかさ、ずるさがなければ、生き残るためのわずかな自由さえ手に入りませんでした。

  こうしたマイノリティの権利拡大の運動と闘争が、「アメリカの自由」の実質を深め押し広げてきたともいえます。
  ただし、そこには自己防衛・互助組織を母体にしながら、表の政治や行政の地方ボスに加えて、裏社会の地方ボスたちが台頭し、しだいに組織犯罪のネットワークが育っていくという側面も付随しています。
  そして、裏と表の世界のボスは、互いに結託し合ってきました。

4 地方の自立性と利権構造

  合州国は、このような文脈で、大きな自立性をもつ地方社会、地方政府、それゆえまた地方ボスの権威を1つの有力な土台として成り立っているネイションです。
  日本ではあいまいに「地方自治体」「地方公共団体」などと呼ばれているのに対して、アメリカでは市や町の政庁は「地方政府」と呼ばれ、日本の地方自治体とはまったく次元を異にした歴史と強固な権力をもっています。

  たとえばニューヨーク市、シカゴ市は独立の大幅な立法権と行政権、課税権をもっていて、名目上は上位の州や連邦と対等に渡り合っています。

  多くの映画や小説の舞台となっているニューヨーク市警察は、連邦との上下関係がなく、市独自に組織する警察組織で、固有の捜査権、人事権などを保有し、州や連邦から独立に行使しています。ニューヨーク市のなかでも地区ごとの警察署や分署も、市警察のなかでは大きな自立性をもっています。

  ゴッドファーザーのなかでも描かれますが、ほかの地方と同じように、ニューヨークの各地区の警察署長や分署長は、さらには年季を積んだ刑事や警察官は、かなり大きな裁量権をもっています。
  それゆえ、警察署長は大きな利権を束ねる官職で、地区の財界人や政治家、裏社会のボスたちと利権のコネクションや利害調整の回路を保持しています。

  そして、警察官僚は、地区ごとに自分たちの利益を追求してはばからないという側面もあったのです。
  というのも、警察署長が警察行政のための財源を自分で確保しなければならない時代が長く続いたからです。財源も地方分権だったのです。

  それは、1960年代までは、あまり規制や制約が加えられませんでした。

  司法機構もこれによく似ています。検察制度は、いくつかの小さな市や町あるいは郡からなる地区ごとに地区検事局が置かれ、その検事(管理者)は住民の選挙によって選ばれます。
  裁判官も、多少は州ごとに異なりますが、州知事や管区の評議会が資格をもつ法律家リストのなかから指名あるいは選出します。

  もちろん、こうした選出や指名・任命は、さまざまな政治勢力の勢力争いの舞台となり、駆け引きや政争の道具として検事や判事のポストが配分されることは当たり前の出来事です。
  したがって、多くの住民の投票や判断に対して影響力をもつ地方ボスたちは、検事や判事に大きな影響をおよぼし、それゆえに犯罪捜査や裁判のなりゆきにも隠然・公然の影響をおよぼすことになります。

  ドン・コルレオーネがニューヨーク州やその隣接地域で、大半の判事に対して強い影響力をもち、刑事訴訟での判決さえもときには左右できるということが映画で描かれているのも、こうした地方機関の独立性や裁量権と絡みついて、地方ボスの権勢や利権が幅を利かす条件があるからです。

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