イタリアと同じく、アメリカでも、マフィアは「公式の政治」の世界と結びついてきた。まあ、日本でも似たところがあるのだが。 だが、アメリカは世界覇権を構築するうえで、マフィアを取り込み利用するために、癒着する仕組みを自らつくり上げたのだ。
裏社会のドンが地方的な権力基盤や人脈を土台にしながら、人脈や影響力を拡大し、ついには合州国国家の中枢近くまでコネクションをつくった例がいくつかあります。
映画《ゴッドファーザー》でも、わずかな時間流れただけのシーンですが、そこには、第2次世界戦争中、マフィア出身の社長が経営するハリウッドの映画会社が、政府および軍と契約して、政権・軍の首脳部と癒着して、戦争プロパガンダ映画の制作を請け負ったことが描かれています。
このとき以来、アメリカ政府は映画産業を重要な戦略的産業として位置づけ、産業政策的な保護、フィルム輸出の支援、税制上の優遇などを進めました。
ここでは、マフィアとアメリカ政府のつながりなかで一番有名な例を見てみましょう。
ニューヨークのマフィアのドン、ラッキー・ルチアーノは、第2次世界戦争中、さる事件から刑務所に収監されてしまいました。おりしも、アメリカはナチスとファシストに征圧されてしまったヨーロッパを軍事的に解放するために苦悩していました。
ときは1943年。アメリカと連合国軍はイタリア半島への上陸作戦を検討していました。このとき、獄中のルチアーノは、司法取引で出獄するために、シチリアの身内のファミリーにアメリカ軍への協力と援助を提案しました。
つまり、シチリアのマフィア組織がアメリカ軍のシチリア上陸ルートを案内し、島の拠点の制圧を手助けし、占領を支援するということです。
この作戦を練り、マフィア人脈との連絡をはかり、情報収集を担当したのは、アメリカ軍情報部OSSで、これは中央情報局CIAの前身です。
ルチアーノの人脈や情報コネクションは、国家の中枢期間・軍情報組織にまで手を伸ばしていたのです。
この功績で、ルチアーノとシチリアのマフィアは、シチリア島や南イタリアで農産物(オリーブなどの果物)の流通・輸送ルートの独占を連合軍(アメリカ)から認められ、さらに市長や議員、警察などの公職も与えられ、その後この地域で権力を拡大する絶好のチャンスを獲得しました。
アメリカ、なかでもCIAはこのコネクションを利用して、ヨーロッパでの工作、情報収集、反左翼運動のプロパガンダを指導・組織化し続けました。犯罪組織と国家機関の癒着です。
ヴァチカン=教皇庁もまた保守的な宗教的立場から、反左翼・反社会主義の活動を支援し、またそのためにイタリア南部のマフィア勢力やアメリカの諜報機関・工作員と結びつきました。
とはいえ、それは冷戦時代にはごく当たり前のことで、ソ連側も同じようなことをしていました。
軍産複合体が支配する国家としてのアメリカは、国家内の平和を維持するために、警察力では壊滅できな犯罪組織=マフィアを秩序の内部に抑え込んでおくための仕組みをつくり上げているようです。
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