「なあなあ」で何だか互いに理解できたような気分で生きていられる日本。つまり、いい意味でも悪い意味でも、とことん「島国意識」が蔓延している。
だが、アメリカはさまざまな階級や、集団、組織がとことん利害をぶつけ合って闘う。
日本とアメリカでは、そもそも国家=国民の生まれ方、成り立ち方が次元が違うほどに異なる。「国境」とも呼べるほどの深い断裂・分断が、集団ごと、地方ごと、価値観や利害ごとに、人びとを引き裂いて、相戦わせるのだ。
アメリカ合州国は、このように、もともとは自立的な地方の集まりであり、また一定の主権を保有する州から成り立っています。日常生活でかなり大きな意味をもつ刑法や会社法、税法などは州ごとに異なっています。
それゆえ、普通の企業の経営スタイルは、州ごとに異なる会社法や税法に対応しなければなりません。州ごとに企業の経営方法や運営手法がある程度変わることだってあります。
犯罪組織またしかり。マフィア組織の運営スタイルや警察への対処方法、脱税対策の方法などにそれなりの違いが出てきます。
こういうわけで、ニューヨークのシンディケイトとフロリダのファミリーあるいはロスアンジェルスの組織とは、同じ賭博経営でも縄張りの運営方法でも違いが出てくるわけです。
このような意味では、アメリカでは正規の企業も、犯罪組織も、連邦規模で「事業」を営むかぎり、州ごとに異なる法制度、政治環境、経営環境などに即応していくことになります。
これは、複数の国で、つまり国際的に事業を営むようなものです。
アメリカの企業は、連邦の内部で「多国籍企業」の経験を積み重ねていったのです。
そこでまた、各地区ごとのマフィア組織のあいだの闘争は、まるで国際紛争のように大がかりな様相を呈してくるわけです。
このような歴史的背景や経験があったからこそ、1950年代末から、アメリカの有力企業が多国籍企業として世界的規模で経営を組織化し、国境を超えて生産や流通をコントロールすることができたのだといわれています。
また、地方の自立性が強く、またその特殊な利害に拘束されがちであることから、単一の国民国家に統合するために、また連邦全体にかかわる事件を扱うために、連邦捜査局FBIや連邦裁判所が組織・運営されているわけです。連邦内国歳入庁IRSもまたしかりです。
こうした組織がなければ、合州国全体という規模での事件捜査や刑事訴訟、そして税金徴収ができないのです。このような制度の構造を、州際体系(inter-state system)と呼んでいます。
日本で「愛国心」を高めようと、「国旗や国歌に対するアメリカ市民の態度を見習うべきだ」と主張する者たちがいる。
だが彼らは、アメリカの国家形成史や国家構造について、まったくの無知な場合が多い。そして、彼らもまた日本列島に固有の「なあなあ一体感」を抱いたままなのだ。
良くも悪くも日本では、アメリカ市民のような「国家意識」が育ちようがない。
というわけで、すでに富と権力の格差が歴然となっているアメリカに「遅れてやって来た移民たち」は、地方的に結束して自己防衛システムをつくらなければならなかったのです。
こうして、政治的にきわめて戦闘的で自らの権利擁護・拡大に熱心な団体や組織、地方政府が続々と生まれていきます。
貧しく虐げられた母国の過去から逃れようとして新世界に来た彼らは、このアメリカの地で新たな格差に直面したのです。生きる知恵と策略、したたかさ、ずるさがなければ、生き残るためのわずかな自由さえ手に入りませんでした。
こうしたマイノリティの権利拡大の運動と闘争が、「アメリカの自由」の実質を深め押し広げてきたともいえます。
ただし、そこには自己防衛・互助組織を母体にしながら、表の政治や行政の地方ボスに加えて、裏社会の地方ボスたちが台頭し、しだいに組織犯罪のネットワークが育っていくという側面も付随しています。
そして、裏と表の世界のボスは、互いに結託し合ってきました。