プロットは、その場所に以前住んでいた可能性がある。そして、何かの事故や事件によって、過去の記憶を失って流浪し、ニュウヨークにやって来たのではないか。そして、7月27日という日付に、その人物にとってトラウマの原因となった深刻な事件が起きたのではないか。マークはそう考えて、車を飛ばして、その地に行ってみた。
その場所は美しい草原と林がある地方だった。
その地の警察官(保安官)によると、数年前、その地に美しい妻と可愛い娘とともに暮らす男がいたという。だが、その家族は暴漢に襲われて妻と娘が暴行を受けて殺され、男も重傷を負って川に落ちて流され、行方不明になったのだ。
その男は、大学出のインテリで田舎で穏やかな生活を楽しんでいたという。数学や物理学、天文学が得意だったようだ。
名前は、ロバート・ポーターで、失踪者捜索を続けてきたが、いまだに行方不明で、現地の警察では死亡して川に沈んだ可能性が高いと判断していた。
ニュウヨークの病院に戻ったマーク博士は、プロットに、家族を暴漢に残酷に殺されたロバート・ポーターという男を知っているかと尋ねた。
「知っている。それが救済を求めていた友人だ。私は、彼の身体を借りて心を癒した。そして、地球上の各地を訪れて観測と観察をおこなってきた。
だが、任務は完了したので、1週間後の朝、彼の身体から抜け出して、光に乗ってK−パックスに帰る予定だ」 と答えた。
そして、
「ここの患者のなかから、試験に合格した者1人を故郷に連れて帰る」と言い出した。
それを聞いたほとんどすべての患者たちが、作文やら手作りの工芸品やらを制作して、プロットのもとに持ち寄った。その試験に合格し、苦悩に満ちた地球から逃れようという思いからだった。患者たちは、普段は何か目的を持つことはもちろん、その目的のために自分を制御することなんかおよそできないはずだった――かつては。ところが、彼らは集中力を持続させて作品をつくり上げたのだ。
そうこうするうちに、翌朝がプロットの出発という日が迫った。
「試験の結果は発表しません。明日の朝、誰かがいなくなっていれば、その人が私が選んだ人です」とプロットがみんなのまえで語った。