「自分は何かのプログラムに沿って動いている!」
マイケルはシステム設計とプログラミングの専門家として、直観がはたらいた。自分は誰かがあらかじめ敷いておいたアルゴリズムの手順上を動かされている、と。
してみれば、封筒に入れてあったガラクタを利用して危地を逃れ続けてきたことに、マイケルは気がついた。その封筒には……1週間前、マイケルはやがて迫りくるであろう危険を予知して、逃走の手段としてガラクタを封入したのだ。
マイケルは、裏町の安ホテルに部屋を取り、ベッドの上にガラクタを並べて考えてみた。だが、記憶は戻らない。
そのとき、なぜかマッチ箱――1ダースほどのマッチ軸を平房状に束ねてカヴァーで覆ったたもの――が気になった。汚れに覆われたカヴァーを洗うと、「カフェ・ドゥ・ミシェル」という店の名前が出てきた。
店に電話を入れてみると、マイケルは翌日の昼にマイケル・ジェニングズ名で席を予約してあり、誰かと会うアポイントメントになっていることがわかった。
翌日、誰と会うのか不明のまま、マイケルは出かけた。
マイケルが合うはずだったのは、オールコムの研究施設の同僚だったレイチェル・ポーター博士だった。彼女とは恋愛関係にあったのだが、マイケルはその期間の記憶を失っている。
レイチェルは、開発期間を終えてマイケルが研究所を出た後で、マイケルが残したメッセイジを知った。「カフェ・ドゥ・ミシェルで会おう」という言葉を。
ところが、国家機密を盗み出してシステム開発をやらせたオールコム社のCEO、ジェイムズは、マイケルの追跡・拉致を狙って、レイチェルにも監視をつけていた。レイチェルの行き先を知ったオールコムは、カフェにレイチェルに扮した女性スパイを送り込んだ。
オールコムがマイケルをつけ狙うもっと重要な理由があった。マイケルはシステムを起動させるとやがてシステムエラーが起きるようなバグを仕込んでおいたので、そのバグ除去の鍵をマイケルから聞き出そうというのだ。
なぜマイケルがシステムにバグを仕込んだのかというと、マイケルは、システムがもたらす恐ろしい未来を回避するために、システムエラーを起こすプログラミングにしたのだ。マイケルは、このシステムがもたらすであろう破滅的な結果を知ったというわけだ。システムの試運転で、システムの稼働後の近未来を覗いたのだろう。
カフェでは、マイケルに罠を仕かけようとする女性スパイがやって来ていた。だが、彼女のあとからレイチェルが現れて、スパイを殴り倒し、殺し屋による狙撃の直前に逃げ出すことができた。
成り行きがわからないまま、2人は殺し屋から逃げることになった。
2人道連れの逃避行のなかで封筒からレイチェルが取りだしたのは、自動車の鍵だった。正しくはバイクの鍵だった。
逃げ道の街路に並べてあったバイクの鍵だった。
2人はバイクに乗って逃げ回って、かろうじて危地を脱した。