ペイチェック 目次
未来予知は破滅を招く
遡行設計
高額報酬の裏の罠
逃亡のアルゴリズム
「先手必勝」の競走は破滅を招く
タイムパラドクスと因果律
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「先手必勝」の競争は破滅を招く

  マイケルはレイチェルから過去3年間の経緯を聞き出し、とくに1週間前のマイケル自身の動きを聞きだした。そうこうするうちに、混乱していた記憶の断片が再生し相互に結びつき、文脈を形成し始めた。
  脳の記憶の消去は、個別の記憶断片は消さずに、それを系統的に呼び起こすディレクトリ構造を担うシナブス連絡経路を麻痺させることによって行なわれていたのだろう。だから、記憶ファイルを文脈づけて呼び起こす機能が復元していけば、しだいに記憶が回復するのだろう。

  回復してきた記憶断片をつなぎ合わせると、こういう文脈らしい。
  ジェイムズは、合衆国政府直属の研究所で研究開発を進めたが何度も挫折していた装置、すなわち《 重力レンズによって光を加速して光速を超えさせて、時間的に少し先の光景をディスプレイさせるシステム 》をマイケルたちに研究開発させたらしい。そのために、研究開発をめぐる国家機密と知的資産を盗み出して、研究の基礎資料としていたようだ。
  結局、遡及設計法でマイケルはシステム開発に成功した。
  だが、試運転として一定の仮想事実の連鎖をプロットしておいてからシステムを稼働させて未来を読み取ってみると、企業や国家がライヴァルに先制・先行してリスクを回避する手立てを取り続けるうちに、核ミサイルの撃ち合いという事態を招いてしまうという未来が見えてきた。相手を出し抜く「先手必勝手順」を追いかけ続けると、将来的となりうる相手を滅ぼす、その結果自らも滅ぶという結論になるのだろう。
  報酬を受け取ってしまえば、従犯ではあっても、共犯関係が成立してしまうのだから。

  未来を予測できる能力は、かえって危険な意思決定の連鎖をもたらすらしい。
  だから、マイケルはシステムをエラーに陥らせるようにしておいて、やがてシステム全体を破壊しようと計画した。聡明なレイチェルを相棒として。
  ただし、マイケルは国家機密と資産の盗用によって利益を受ける結果を避けるために、報酬=有価証券の受け取りをあらかじめ拒否して、将来の訴追に備えておいたのだ。システム開発はジェイムズに騙されてのことで、そのことによって利益=報酬を受けていないという結果をもたらすようにしておけば、FBIによる刑事訴追を免れるからだ。

  つまり、自ら未来の自分に罠をかけたのだが、それはジェイムズが仕かけた泥沼の罠から逃れるための方法だった。そして、マイケルは自分の思考スタイルや行動スタイルを自己分析によって知り抜いているから、捕縛や暗殺の魔手から逃れるために使うであろうガラクタを封筒に入れて、未来の自分に送り届けたわけだ。

  このあと、IDカードを利用して、オールコムの研究所に忍び込んでシステムを破壊する冒険に2人は挑戦する。
  一方、オールコム側は、その動きを察知したが、システム全体を解体するために、一度システムを正常に起動させる必要があることを知っているので、マイケルたちを泳がせておいて最後に――システム起動後に――抹殺することを狙いとした。   というわけで、2つの立場の知恵比べと闘いが展開する。
  マイケルとレイチェルはジェイムズの用意周到な待ち伏せ攻撃をどうにかしのいで生き残る。ジェイムズは未来予見装置の爆発に巻き込まれて死んでしまう。そして、FBIによる捜査でも共犯の嫌疑を逃れることができた。
  最後に、恐ろしいほどに幸運の結果――懸賞籤で巨額の賞金を得るチャンス――を目の前にするが、未来を予見して好運や勝利を手に入れようとするとロクなことがないという教訓を噛みしめる選択をする。

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