今回は映画『プラダを着た悪魔』(2006年)を特集する。原題は The Devil Wears Prada 。そのまま訳すと「悪魔はプラダを着ている」。
原作はローレン・ワイズバーガーの同名の小説、 Lauren Weisberger, The Devil Wears Prada, 2003 だ。
この原作小説の物語は、アメリカの最先端のファッション情報誌『ヴォーグ: Vogue 』――ヴォーグの意味は「流行」「最新の流行」――の編集長と編集部をモデルにして描かれたもの。映画では、《ランウェイ》という名の雑この編集部に採用された新人の編集助手の目から見た、ファッション界とファッション雑誌の世界の姿が描かれている。
女性の流行ファッションを誰よりも先駆けて提示し、自ら流行を生み出していくといわれる雑誌で、その編集部に採用されることは、世界の何百万人もの若い女性たちの憧れの目標だというらしい。
ここでは、最先端のファッション雑誌 《ランウェイ: Runway 》 の編集長と編集部が舞台となっているのだが、ランウェイとは、ファッション・ショウでモデルが歩く桟橋状のステイジのことだという。ということは、「ラン」とはモデルたちが恰好をつけて歩く、あの動作ということだ。
さて、最先端のファッション雑誌は、世界の多数の女性たちに独特の価値観やイリュージョンを振りまき、服装や装飾品などについて、巨大な影響力をもつ特定の共同主観――多数の人びとの判断や行動を方向づける社会意識――をつくり上げているものらしい。
主人公の若い女性、アンドレア・サックスは、シカゴのノースウェスタン大学のジャーナリスト学科を首席で卒業して、ジャーナリズムの世界への就職を狙っていた。だが、何を勘違いしたのか、この世界で「最もしんどい編集部」に勤めることになった。
「採用されてから1年間職場にとどまるのがニュウヨークで一番難しい編集部」というのが、業界でのファッション雑誌 《ランウェイ》 の評判だった。
「世界で最も女性に人気のあるファッション情報誌」ということなので、ここに勤務しようと願う若い女性は掃いて捨てるほどいるらしい。就職試験の競争率は書類選考前からカウントすると、1000倍にも達することがあるという。
してみれば、アンドレアは、何百人もの――書類選考の審査を通った――競争相手の女性たちのなかから、編集長の助手としてただ1人採用されたのだ。
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