騒動のあとでミランダはアンディに打ち明けた。
「じつは前から、この陰謀を知っていて、反撃を準備していた。攻撃を仕かけられたら、ジャクリーンを潰すつもりだったのよ」と。そして、
「この世界では競争や足の引っ張り合いがものすごいのよ。 《ランウェイ》 の経営陣=株主たちは、私の実績が少しでも傾けば、いつでも首を切って編集長をすげ替えるつもりよ。そういう世界なのよ。
でも、あなたの忠告を受けてフェアプレイで決着をつけることにしたわ。忠告してくれてありがとう」と語った。
ミランダは信頼を寄せるようになった新人のアンディの前で、血みどろのような醜い争いを演じたくなかったのだろう。
ところが、結局、本格的な出版編集あるいは記者(作家)をめざすために、アンディは転職の希望をミランダに打ち明け、 《ランウェイ》編集部を辞めることにした。
そのため、パリのファッション・ショウにはエミリーが行くことになった。
その後しばらく、アンディは出版界での就職活動をすることになった。そして、ニュウヨークの大手出版社の編集部の求人に応募し、運よく面接後に採用されることになった。この幸運は、ミランダが用意したものだった。
ミランダはアンディを一流の出版社に推薦したのだ。自分が提起してきた数多くの難題を悩みながらこなし、仕事に関する洞察力を研鑽して成果をあげてきた、と。
飛び抜けた能力を備えてはいるものの、わがままなミランダが要求するハードワークに耐えたという推薦状は、出版界で絶大な神通力を発揮したのだ。出版編集は、わがままな読者のニーズに応えたり、新たなニーズを開拓したり、作家をなだめたり、しんどいスケデュール管理の段取りをつけたり……というハードワークな世界なのだ。
出版社の経営陣は、あのミランダが評価・推薦した若手なら、抜群の資質を備えていて努力も惜しまない若者だろうと判断して、アンディを採用した。
こうして、アンディは本来の希望の職種――出版社の編集部――に転身することができた。
ある日、編集記者として動き回っているアンディは街でミランダを見かけることになった。相変わらず、ファッション界の最先端を走り続けるべく精力的に動き回っているようだ。アンディが称賛と感謝の眼差しでミランダをを見ていると、ミランダは自動車のバックシートから穏やかな一瞥を送ってきた。
「私の手元から羽ばたいて活躍しているのね、おめでとう」とでも言うように。
だが、一瞬後、自分の戦場へと戻るために、厳しい顔つきになった。そして、こき使っている専属運転手を急かして走り去った。
映画の物語のなかで、ミランダ外しの陰謀は原作にはなかったという。
原作者のローレン・ワイズバーガーは、ファッション雑誌 《ヴォーグ》 編集部に勤めた経験があるという。したがって、ファッション界やファッション雑誌界の実情を踏まえて物語を構成したはずだ。
ミランダの人物像はフィクションだとローレンは説明しているが、そういうタイプの――それほど極端ではないにしろ――編集長がファッション出版界にはそれなりの割合でいたのだろう。
まあ、コメディ仕立ての若者(若い女性)の成長譚だと思えばいいだろう。
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