演技方法と物語性 目次
「真に迫る演技」とは何か
物語性と演技との関係
演技とは何か
人物造型を表現する演技法
人物像を演じ切るために
人物のぶつかり合い
『大誘拐』の人物たちと演技
人物像・存在感と演技

人物像を演じ切るために

  結局のところ、すぐれた役者は観察力や洞察力、想像力に富んでいるということになるだろう。そしてすぐれた心理分析者ということになる。もちろん、演技によって外形(言動、姿形、表情など)に表現するために、その限りにおいてだが。

  演技というのは、登場人物の役割を演じるということだ。ある個性=パースナリティを持つ人物が、それぞれの状況・場面・人間関係のもとで、どんな意識・感情を抱き、どんな言動をするかを演じ分けるということだ。つまり、見る者に、人物の性格や心理を理解させ、想像させるために最も効果的な動きや言い方、表情などの表現方法を取ることができるということだ。
  主な筋書きや人びとの動き、せりふは脚本=台本に書かれている。しかし、それは、場面ごとの演技によって具体化されければならない。
  役者は、脚本を読み込み、登場人物の性格や生い立ち、心情などについて想像をめぐらして分析し、把握し、自ら世の中や人間の観察から得た表現を考え、こういう人物なら、こういう場面ではこういう心理状態で、こう動き、こういう言い方をし、こういう表情をするだろう・・・と演技の肉付けをおこなう。


  ところが、撮影の場面で、具体的な背景、備品や人物配置のなかで動いてみると、脚本では描き切れていない独特の雰囲気(緊張や緊迫感、あるいはのどかさ、穏やかさ)が醸し出される。となると、同じせりふにしても、言い方や抑揚の付け方、テンポは少し違ってくる。動き方にしてもそうだ。
  同じ人物にしても、状況ごとに心理や心情は変わってくる。
  そこに、脚本から相対的に独立した演技者ごとの解釈や評価が入り込む余地が、少なからず生まれてくる。またそこに、演出家やディレクターたちの腕の振るいどころがあるのだろう。
  さらにまた、場面・シークェンスの持続や流れのなかで生じる累積効果というものもあるだろう。たとえば、いくつもの場面での人物の言動や表情、雰囲気などの積み重ねによって、その人物の性格、場合によっては生い立ちや家庭環境さえも描き出すことになる。

  そういうものは、物語の奥行きや広がりをもたらすものだ。
  物語が、薄っぺらで平板なものに終わるか、深い奥行きやどっしりとした厚みを持つかどうか、そこで決まることもあるだろう。観客が集中して、緊張感を持続させて観るかどうかは、そこにかかっているかもしれない。というよりも、どれほど巧みなプロットでも、登場人物たちがステレオタイプで人生の経験・厚みを感じさせなければ、観る側が受けるインパクトは大きく異なるだろう。

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