ワグ ザ ドッグ 目次
しっぽよ犬を振り回せ
原題と原作について
見どころ
現職大統領はロリコン
争点をプロデュースせよ
トラブルシューター
演出はプロデューサーにまかせろ
演出される「アルバニア危機」
カウンタームヴメント
手を変え、品を変え
CIAとの対決
「シューマンを救え!」
「アメリカはシューマンを悼む」
大統領、再選を果たす

カウンタームヴメント

  ところが、軍の派遣となると最高度な国家の意思決定や外交問題となる。連邦政府には、このような場合に「国家理性」や「シヴィリアンコントロール」による国家装置の監督や統制を任務とする機関がある。
  したがって、こうした情報の出所(情報源)や根拠を探り、当該地域の状況分析をおこない、「正しい」政府の行動指針を検討する動きが始まる。
  すなわち、CIAやNSC、ペンタゴンの情報部門のカウンタームヴメントだ。世界情勢や軍事に関する専門の情報機関が動くというわけだ。
  そうなると、たちまち、ブリーンやモッツたちが流し、扇動しようとしている情報は、根拠のない虚偽ないし国内での攪乱情報作戦である、という結論になる。
  とすれば、こうした虚偽情報の流布は国家の安全保障にとって、すこぶるゆゆしい事態となる。という判断で、CIAがニセ情報の流布をめぐる犯罪捜査と抑止に乗り出した。まさか、大統領のセックス・スキャンダルがきっかけとなった、選挙キャンペインの一環だとは思わない。
  大統領府も、そんな破廉恥な状況を政府の情報機関に説明して、彼らの活動を抑え込むわけにはいかない。

  というわけで、てんやわんやの混乱が起き始めた。
  コンラッド・ブリーンたちが繰り広げている「ワグ・ザ・ドッグ作戦」は、もちろん大統領府の正規の(合法的な)広報活動ではない。あくまでマスメディアの一部がおこなう映像情報(捏造情報)の供給にすぎない。表向き大統領府や大統領の選挙本部とは「無関係」の動きだ。
  他方で、彼らがメディアの一部に醸し出した危機感について、CIAや軍情報部など、しかるべき正規の政府機関はそれなりに対応しなければならない。リスクマネジメントの手立てを講じることになる。誤った情報ならば沈静化と封じ込めをおこない、事実ならばしかるべき作戦を策定しなければならない。

  ところが、ブリーンたちは、危機感を煽り立て、軍の関与を匂わせただけで、実際の戦闘場面の映像情報は提供していない。実際に存在しない危機なのだから、映像を出しようがない。できないのだ。これについて、捏造情報を流すことは犯罪となるし、軍や刑事司法による追及を免れない。つまり、ホワイトハウスは、間接的にであるにしろ、犯罪(しかも軍事犯罪)にかかわることはできない。
  ホワイトハウス広報部は、アルバニア危機について、当然「公式=表向きには」否定することになる。ただし、否定の理由や判断根拠は示さない。ゆえに、含みを残すことになる。
  だが、軍事情勢に関する専門組織はもっと厳格に動く。
  軍は、アルバニア上空に軍事偵察衛星を飛ばして、探索と解析をおこない、アルバニア国内での戦闘や動乱の事実がないことを確認した。メディアの一部は、軍の派遣を否定する事実の報道を開始した。
  ホワイトハウスも、近い過去および現在に、アルバニアに合衆国の軍が派遣された事実はないと明言せざるをえなくなった。
  こうして、モッツらの暗躍で、せっかく火がつき始めた「雰囲気」と世論の関心に、冷たい水が浴びせられていくことになった。

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