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これで、モッツたちが企図した世論誘導(ミスリード)は「袋小路」に追い込まれたかに見えた。
ところが、転んでもただでは起きない手合いだけに、別の材料でアルバニア危機を演出しようとする。
例の映像に登場した「逃げ惑う少女」がすでにアメリカ軍によって救出され救出保護され、難民として亡命し合衆国にやって来る。そこで、生き別れになった母親と「感動の再会」を果たす。という筋書きをでっち上げた。
ブリーンの意見も取り込んで、モッツたちはシナリオを描いた。
少女と母親とともに「アメリカの保護の傘」のもとに救出・保護・再会できた、という文脈を強調したいというわけだ。文脈は、しかるべき照応的なイコノロジー(映像の構図)において具現されなければならない。
そうだ、降りしきる雨のなかで、大統領が差し出す傘のもとで、母娘は再会し抱擁しあう、そういう映像だ!
というわけで、少女が航空機から降り立ち母親と出会う場所は、当面、降雨が続くであろう合衆国内の空港しかない。かくして、ロケイションが決まった。出演予定者は、わざわざ荒れ模様の気象に下に送り込まれた。
というわけで、雨に煙る空港で、あの少女はスラブ系の中年女性(これも売れない女優)と会って抱擁する場面が映像化され、メディアに供給された。「感動的な場面」の映像という触れ込みで、このシーンは各局の報道番組で流された。
政府の公式機関の広報によって、根拠のない「アルバニア危機」や軍の関与に関する「与太話」を打ち消したばかりなのに、次から次へと怪しげな情報が乱れ飛ぶ。捜査を始めたCIAのエイジェントたちは、とうとう情報の発信源を突き止めた。フィクサーのコンラッド・ブリーンが怪しい、と。
ついに、CIA捜査陣が、モッツらと行動を共にするブリーンを補足した。
彼らは街中でコンラッドを捕まえて、アルバニア危機と軍派遣の虚偽情報が流布されているが、その根源は「君たち」だな、と詰め寄った。コンラッドとスタンリーたちの活動は、根も葉もない合衆国の海外への軍事的コミットメントについての情報発信であって、国家安全保障に関する重大な違法行為だというのだ。
ところが、ブリーンは自分たちの車にCIAの捜査チーフ、チャールズ・ヤングを乗り込ませ、これは深いところで合衆国の安全保障や国益に絡む活動で、暗黙のうちに政権ともかかわっている…というような説明で、問題をはぐらかし、捜査チーフを煙に巻いてしまった。丸め込んでしまったのだ。