先祖代々の家業を引き継ぎ、超一流の殺し屋として活躍するヴィクター。冷静で理知的で、教養も深く、貴族風の物腰。そして大金持ち。だが、結婚する気はないようだ。
ところが、今度殺しを請け負った標的は、とんでもない「あばずれ娘」だった。
ところが、ヴィクターの暗殺の企ては、運が悪いことに、ことごとく邪魔が入って失敗続き。とかくするうちに、焦った「顧客」は別の殺し屋にも依頼した。アイリッシュ系マフィアの親分だが、気が短くて節操がない。しかも人を見る目がない。
そして、ヴィクターはなぜだかその殺し屋から娘を守ってしまったことから、とんでもない成り行きにはまってしまった。
美貌だけは飛び抜けているものの、教養も知性もない――ただし頭はめちゃくちゃ切れる――「じゃじゃ馬娘」にヴィクターは振り回され続けることになる。
そんないささか女性コンプレックスに陥っているヴィクターの性格は、頭脳明晰で先を読む目が鋭い母親――教育ママみたい!――がときどきヴィクターの暮らしに口を差し挟んでくるせいでもあるようだ。
そして、偶然、ヴィクターの助手兼弟子になったトニーという若者、彼もおっとりしていて控えめ。ヴィクターとともに、気が強い女性たちに引きずり回される。
というわけで、物語や人物、状況が、極端なコントラストをなすように設定されている。映画の観客もまたヴィクター同様に、ロウズというじゃじゃ馬娘と母親に振り回されることになるだろう。
ヴィクター・メイナードはきわめて理知的で冷静、紳士的な人物だ。年齢は55歳で独身。物腰は、ブリテンのエリート階級として十分通るほど優雅で、教養も深い。そして大富豪だ。
ところが見た目の優雅さとは裏腹に、ヴィクターの仕事はフリーランスの殺し屋。それも、冷酷で凄腕の一流アサシンだ。先祖代々、殺し屋を家業としているらしい。
契約料金=報酬はめっぽう高額だ。しかも、これまでに失敗したことは、ほとんどない。だから、契約金はますます吊り上がっていく。
だから、ものすごく富裕で優雅な暮らしをしている。物腰はまるで金融界で立ち回っている富裕な有力貴族という感じ。
けれども、彼には多少とも「マザーコンプレクス」の傾向があるようだ。少なくとも、ヴィクター自身はそう感じている節がある。だから、女性に対して何歩か引いた立場を保ってきたのかもしれない。
というのも、彼はつい先日まで母親と2人きりの暮らしをしていたからだ。妻と年の離れた父親は、これまた凄腕の暗殺者だったが、当時の平均的な寿命を全うして、かなり以前に他界している。そのため、年若いヴィクターを鍛え上げて超一流のアサシンに仕立て上げたのは、母親だともいえる。
一方、母親のルイーザは、いつまでも独身を続ける息子には潜在的に「同性愛」の嗜好があるのではないかと心配している。
というわけで、マザコン環境からの離脱つまり「独り立ち」をめざして先頃、ヴィクターは母親から離れて暮らすことにした。
さて、母親ルイーザは、めったに表には出ないが、ヴィクターと同じくらいの凄腕の殺し屋。
ルイーザは家門の伝統を守るべく、幼少時から息子に超一流となるように「殺しのテクニック」や「判断力」「心構え」などなどのほか、これまた一流の教養や趣味を叩きこんできた。したがって、ヴィクターとしては、頭の上がらない師匠様なのだ。
まあ、そういうわけで、ある意味で人生の岐路にさしかかっているヴィクターなのだが・・・・・・。
そんなあるとき、アイアランド系ギャングのボス、ファーガスンから殺しの依頼を受けた。相手は若女性で、ロウズと名前。報酬は高額なのだが、殺しの理由については説明されることはなかった。
もっとも、暗殺依頼はたいていがそういうもので、ヴィクターが標的が暗殺される理由を知ることはない。知りたいとも思わない。