さて、ヴィクターが殺しを請け負った標的ロウズは行動スタイルが相当に変わっている女で、ヴィクターは何度も殺害のタイミングを逃し続けた。
ヴィクターはロウズを殺し機会を探るために彼女の居室に盗聴マイクをしかけて、彼女の行動を監視することにした。
一方、ヴィクターの母親、ルイーザは息子が何度もローズの殺害機会を逃していることにがっかりし、少し焦ってもいた。そのせいか、口うるさいオウムのロジャーを編み針で殺してしまった。
ルイーザはヴィクターに助言した。業界での声望を守るために、殺しの依頼主に失敗し続けていることを謝って、報酬なしでロウズを片付けることで許してもらえと。
ところがその間に、気が短い依頼主、ファーガスンはヴィクターに見切りをつけて、別の2人組の殺し屋にロウズ殺害を依頼した。
2人組はさっそく、ロウズをビルの地下の駐車場で待ち伏せて襲った。まず1人がロウズを狙った。
ところが、殺害のタイミングをつかむためにロウズを追っていたヴィクターは、その殺し屋2人組を自分の殺しを邪魔する者どもと見たのか、それともとっさの混乱なのか、ロウズを助けるために、ひとりを射殺してしまった。そしてロウズを車に乗せて逃げようとした。
これまで経験したことがない人助けをしたせいか、ヴィクターは油断していたようだ。
次の瞬間、もう1人の殺し屋、マイクがロウズとヴィクターの背後に迫り銃を突きつけて脅し、2人を壁に向かって並べて立たせ射殺しようとした。
ところが、そこにホームレスの青年、トニーが現れ、拾った銃を構えるなり速射し殺し屋の銃をはじき飛ばした。彼は、ヴィクターが私立探偵だと勘違いしていたのだ。
トニーは死んだ殺し屋の銃を手にしていたのだが、銃を手にするのははじめてだった。にもかかわらず正確無比の射撃だった。相手を殺すのではなく、銃を弾き飛ばすのだから。
ヴィクターとロウズはロウズの車で逃げようとしたが、殺し屋マイクが銃を拾って彼らを撃ち始めた。
ヴィクターとロウズは、トニーも車に乗せて地下駐車場から逃走した。
ロウズはヴィクターを私立探偵だと思い込んでいるので、週3万ポンドでボディーガードをしてほしいと頼み込んだ。ヴィクターはその誤解を解くこともしなかった。
さて、逃走した3人は高級ホテルに入って、あのファーガスンと同じ階の部屋に投宿することになった。
おりしもそのときファーガスンは、殺しのプロの世界ではヴィクターに次いで2番目の凄腕だという評判のディクソンを雇ってロウズとヴィクターを殺させようとしていた。ディクソンは、業界ナンバーワンの凄腕を標的とする難しさをあまり深く考えず、この殺しが成功すれば、自分がトップの座に登れると意気込んだ。
ところがまもなく、ロウズが死んだ殺し屋から盗んだブーツから足がついて、3人はマイクに居所を知られてしまった。マイクは部屋で待ち伏せして、バスタブに潜みトニーを襲った。トニーは溺れそうになったが、何とか逃れ出て、マイクと格闘しているときにマイクの片耳を銃で吹き飛ばしてしまった。
混乱のなか、3人はホテルから車で逃走した。
ファーガスンはマイク――このときにはマイクはファーガスンの手下格になっていた――が運転する車で3人を追いかけた。が、何事にも乱暴粗雑なマイクは運転を誤って事故を起こして車が大破し、2人は病院送りになった。