3人は片田舎にあるヴィクターの屋敷に隠れることにした。
その屋敷は貴族の館のような邸宅だったが、ヴィクターはそこに猫のスノウィーと一緒に暮らしていた。それは豪邸で、屋敷の造りも家具調度類も高級なものばかりなのだが、そこには生活臭がまったくなかった。家具には誇り除けの白いカヴァーがかけられていて、使っている様子もなかった。
そこに逃避行の末に3人が来て暮らし始めると、いく分生活の場らしくなってきた。
ヴィクターはトニーを弟子にした――私立探偵であるような振りをして。ヴィクターとしては、生まれてはじめて発砲して正確無比の射撃の腕を見せたトニーを助手兼弟子にしようと考えたのだ。一方、トニーはヴィクターが私立探偵だと信じていた。
ところがある夜、ヴィクターの母親、ルイーザが屋敷に帰ってきて、ロウズと会った。何と、ヴィクターが殺害を依頼された標的ではないか。ルイーザは息子がやり残したままのロウズの殺害を試みようとしたが、ヴィクターは母親を説得して何とかやめさせた。
そのうちにヴィクターはじゃじゃ馬娘のロウズと恋仲になってしまった。
そんなある日、ロウズはヴィクターの部屋のなかで、母親が彼に贈ったあの革表紙の本を見つけて中身を見た。すると、ヴィクターがじつは殺し屋であることを知ることになった。そうなると、恋仲にはなったものの、ロウズはヴィクターをどこまで信頼していいのかわからなくなった。ヴィクターもトニーも信用できなくなった
さらに部屋のなかを探りまわると、ヴィクターの父親が最初に手に入れた銃――自動拳銃マウザー ――を見つた。ロウズは、それを護身用にもらっておくことにして、別の場所に隠した。
殺し屋の家に暮らしていると思うと居心地が悪くなったので、ロウズは屋敷を抜け出して、今回の贋作事件の舞台の一つとなった国立美術館に出かけた。
ところが美術館に来てみると、彼女のためにに贋作をつくった修復家が殺されていた。しかも、殺し屋のディクソンと手下のファビアンがロウズを待ち構えていた。
殺し屋たちはロウズを捕らえてヴィクターの屋敷に行き、ヴィクターとトニーを拘束・殺害しようとした。
ところが、そのときルイーザが現れてマシンガンでファビアンを撃ち殺した。ディクソンは抜け目なくその場を逃れ、ヴィクターの部屋に逃げ込み、そこでロウズが失敬した銃を奪い、反撃に転じてヴィクターに向けて撃った。
しかし、その銃は反対向きに火を噴いて、ディクソンの脳にボルトが食い込んだ――彼は即死。
ロウズとトニーは始末した2人の殺し屋を裏庭に埋めてしまうと、それまでの平穏な生活に戻った。ロウズはヴィクターの愛が本物だとわかり、この屋敷で暮らすことにした。何しろ大富豪の暮らしぶりになったわけなので、冒険的な犯罪を繰り返す行動スタイルはおさまってきたようだ。
その3年後、ヴィクターとロウズは結婚してエインジェルという名の男の子をもうけた。トニーも2人と一緒に暮らし行動していた。この間に、彼はヴィクターの本当の職業を知ることになった。いささかショックだったが、すぐに慣れてしまった。万事が鷹揚な性格なのだろう。それに、トニーには、殺し屋としての素質があったので、そんな暮らしぶりにすぐに適応した。
そんなある日、トニーはいなくなった猫のスノウィーの姿が見えなくなったことに気づいた。猫の行方を探して、ヴィクターに猫の居所を知らないかと尋ねた。
戸外に出て2人が猫を探していると、幼いエインジェルが庭で無邪気に土いじりをしていた。掘り起こした柔らかな土を地面に埋め戻して叩いている。その姿を見たその瞬間、彼らはあることに気がついて驚愕した。
つまり……エインジェルが猫を殺して埋めたということなのだ。エインジェルの一連の動作は、間違いなくこの幼子がたぐいまれな殺し屋の本能と才能を備えていることがわかった。蛙の子は蛙だ。
ヴィクターは気を取り直すと、さすがわが息子という誇りを感じてほほ笑んだ。
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