渚にて 目次
核戦争による人類の滅亡
孤独な原潜
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サンディエーゴ
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孤独な原潜

  物語は、1950年代末の時点での「近未来SF」である。
  ときは1964年。北半球の超大国レジームのあいだで大規模な戦争が発生し、互いに多数の核ミサイルを撃ち合い、核爆弾を投下し合った。第3次世界大戦だった。それは、地表全体に解決不能な深刻な核汚染をもたらし、人類の滅亡を引き起こすもので、まさに「人類最後の戦争」となった。
  核爆発による放射能・放射性物質による大気・洋上・地上環境の汚染はまたたくまに北半球を覆いつくし、北半球の人類文明とあらゆる生物を滅亡させた。やがて、核汚染は大気循環や海流循環によって南半球の大半に広がった。

  人類と生物は、わずかにオーストラリアでだけ生き延びていたが、放射能で汚染された大気や海流が迫っていた。あとわずか半年足らずで、オーストラリア南端まで達するものと観測予測され、最後に残された人類はなすすべもなく死滅のときを待つしかなかった。
  ところで、世界核戦争の原因は何だったのだろうか。
  キューバ危機をめぐる軍事対立が先鋭化したのだろうか。

  1950年代末から60年代はじめにかけては、アメリカの覇権が国際レジームとして確立された反面で、世界的規模での2大レジームの敵対としての東西冷戦も深刻化していた。しかも、アメリカ、ロシア、フランス、ブリテンの核兵器開発競争はますます全面化し、すでに地球を何百回も破壊するほどの核兵器が備蓄されていた。
  ネヴィル・シュートが原作小説に込めた懸念は、その当時、じつに現実的な危機を反映したものだった。


  さて、北半球での大規模な核戦争のさなか、合衆国海軍の原子力潜水艦が1隻、マリアナ海域で単独作戦を遂行していた。核汚染が北半球のほとんど覆いつくそうとしていた頃、その原潜は長い潜航の途上にあったことから、偶然、乗組員が生き延びることになった。
  原潜の動力エネルギーは核分裂反応による熱によって生み出されるので、酸素を消費しない。そして、原潜には、海水の電気分解で酸素を生産供給する装置が備わっているので、海面下にいれば半年くらいは生存の可能がないとはいえない。
  しかし、わずかである。

  大規模な核戦争ともなれば、きわめて威力が大きい水爆が投入されることもあって、放出される核エネルギーと放射線 ――ことに中性子線やγ線など――は地殻や海水中も秒速何万キロメートルの速さで浸透通過するので、通常の潜航深度では生存は不可能であろう。北半球が全滅という事態ではなおさらだ。
  放射線の密度にもよるが、核シェルターもほとんど役に立たない。
  だが、当時の核科学の知見では、核汚染の危険性はそこまで把握されていなかったようだ。だから、海面下では原潜ならば生き延びられるだろうと想定したのだ。
  そして、その当時はまだ、核ミサイルは図体が大きくて原潜に搭載されていなかったという軍事的事情がある。今では、原潜こそが最有力の核ミサイルの搭載運搬手段となっている。ただ1隻の原潜が生き延びるという状況設定は、そういう時代背景があって、用いられたようだ。

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