医学の進歩は難病の新たな治療方法を次つぎに開発し、より高度な医療サーヴィスを可能にするが、他方で医療費をどんどん膨らませていく。膨大な人口を擁し、個人の選択の自由や自立という原理に立つアメリカでは、公的な医療保険や社会福祉がない。
そこで、どんどん高額化していく社会(一般市民の)の医療費を誰が、どのような仕組みでまかなうか、が問題になり、個人の責任に任せておける限界を超えてしまっていると指摘されている。
この作品(1978年作品)は、高度化によって膨らむ医療費をまかなう仕組みをつくり出そうとするある政府組織の陰謀を描いている(脚本:マイケル・クライトン)。原作と映画の鋭い問題提起から40年近くの長い年月が経過したが、オバマ政権は公的医療保険制度の導入に挑戦したものの、反対派の包囲網のなかで、いまだに問題の本体にはまったく手をつけられていない。
原題 Coma で、意味は「昏睡、昏睡、脳死による植物状態」。原作 Robin Cook, Coma, 1977(早川書房から邦訳 ロビン・クック著『コーマ』が出されている)。
見どころ:
医学の発達、治療技術の進歩は、新たな治療法、病理から人体の健康を回復させるより効果的な方法を生み出す。これまでは治療(治癒)不可能だった疾病や症状への対策が次つぎに開発される。
だが、それとともに、医療機器・設備は高度化、大型化し、飛びぬけて高額になる。患者の数は増え、入院期間もどんどん長くなる。病院の規模も拡大していく。治療費は膨張し、社会に与える負担も重くなる。
こうした医療機関と社会の財政負担の増加・膨張は、やがて――資本主義的利潤原理によって組織され運営される――社会と医療制度の運営を危機に直面させるかもしれない。
この作品は、そんな危機感が生み出した、恐るべき犯罪・陰謀の構図を描き出す。
ボストン記念病院の研修医、スーザン・ウィーラーは、最近、病院内での比較的簡単な手術の最中に患者が脳死する事件が続いていることに気づいた。
同棲している恋人にして、病院の主任研修医、マーク・ベロウズにその疑問をぶつけたが、意に介さない。スーザンは単身、脳死事故の状況と原因の調査を始めた。
やがて、若く健康な患者を狙って脳死を引き起こす、恐るべき謀略を察知することになった。陰謀には、病院経営陣や医師団の幹部が加担しているらしい。背後には、政府機関とジェファースン研究所があるようだ。
ジェファースン研究所は、脳死患者の臓器を切り取って全世界の「市場」に向けて売り出す、恐るべき営利事業を展開していた。
この陰謀は、アメリカ各地の巨大病院の幹部や医学界を巻き込んで、展開されているようだ。秘密を知ったスーザンに死の危機が迫る。病院と幹部医師団によって彼女が第8手術室の患者にされてしまったのだ。
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