2019年のロサンジェルス。地表はすべて人工の建造物で覆われ、樹木や草原は見えない。気候温暖化が進んで、ロスではほとんど毎日スコールのような雨が降っている。
高層ビル群のなかにひときわ巨大なビルが他を圧して聳えている。その頂部は、ピラミッドのような四角錐をなしている。
それが、タイレル・コーポレイションで、地球全体はおろか人類が支配する宇宙空間全体にわたってヒューマノイド(人造人間)やアニマロイド(人造動物)を供給し、巨大な利潤を獲得している超大企業だ。
人類はバイオテクノロジーやサイバーテクノロジーを発達させ、地球や外宇宙(off-world)の天体で危険な探査活動や資源開発、植民などのための作業労働――これには軍事活動や肉体労働、娯楽ショウビズネス、性産業などが含まれる――を担うヒューマノイド(レプリカントreplicant:模造人間)を「製造」するようになった。
その最先端を走るのが、タイレル社だ。
レプリカントの最新型がネクサス6で、すばぬけた身体能力や知能をもっている。
高性能の頭脳に高度な思考力と判断力、知性を埋め込まれたネクサス6は、時間の経過とともに生物として進化し、感情=情緒を備えるようになっていた。
そうなれば、1個の生物、1個の人格としての自立を求め、ただ単に道具としての働きだけを命じる人類の命令や指示に反抗するようになる。
けれども、人工生物としての不完全性・欠陥からか、免疫不全を起こしてウィルスに感染して、しだいに細胞の増殖や再生に障害が生じ、やがて身体器管の機能不全を起こして、短期間に死滅する運命にあった。
その寿命はわずか4年間。情緒の発達と人格性の自立を求め始めたその矢先に、寿命を終えてしまうのだ。
レプリカントたちは、主に地球外の天体での人間の活動の道具として使役されていた。戦闘、重労働、性的愛玩、家事などで特化された能力を発揮していた。
そして、彼らの脳にはこれらの作業に関する手順のほか、高度な思考、判断、推論などの機能が移植されていた。すべての作業は、レプリカント個体の思考や判断、意識をとおして、つまりは彼らの身体の動きや言語発生によっておこなわれていた。
したがって、人工生物=模造人間ではあっても、意識や感情の発達にともなって1個の生き物、個性や人格性を備えた主体となっていく。
とはいえ、本来、彼らは人間(個人や企業)のさまざまな欲望・欲求に隷従すべき道具としての存在であり、個人や企業の所有物にすぎないものとされていた。