ブレードランナー 目次
原題と原作
見どころとテーマ
あらすじ
ヒューマノイド「レプリカント」
造物主と被造物
プロメテウスの火
従属し虐げられた者の反乱
近未来都市、ロスアンジェルス
任務への復帰
レプリカントの美女
レプリカントと人間との恋愛
レプリカントの切望
驚きの状況設定
造物主との対面
レプリカントの悲哀
最後の対決
レイチェルとの逃避行
人は生命を理解できるか

◆レプリカントと人間との恋愛◆

  さて、捜査から戻ったデッカードの部屋をレイチェルが訪れた。
  彼女は、テストの結果が心配で、判定結果を尋ねるために来たのだった。レイチェル自身は、タイレルの姪の記憶を移植されているため、自分では人間だと思っていた。ところが、自分がレプリカントではないかと疑心を抱いているのだ。
  デッカードは、この美女に深い好意を抱いているので、判定結果をはっきりとは口にしなかった。が、頭脳明晰で洞察力抜群のレイチェルは、デッカードの態度で自分がレプリカントだと確信した。レイチェルは動揺し、焦燥感に駆られた。
  それを見ていじらしくなったか、デッカードはレイチェルと愛を交わしてしまう。
  それにしても、人間とレプリカントとのあいだでも、恋愛関係は成り立ってしまったというわけだ。

  翌朝、デッカードはレイチェルを部屋に残したまま、捜査に出かけた。そして、ヌードダンス劇場に潜んでいるゾーラを発見し、追跡、闘争が始まった。
  なにしろ格闘技の戦闘能力抜群の暗殺者だから、すさまじい闘いが街中で展開された。デッカードは手ひどい負傷を負いながらも、どうにかこうにかゾーラを始末した。
  勝敗・生死を分けたのは、武器の差だった。デッカードは、レプリカント抹殺線用の銃を持っていたのだ。

  だが、油断したところをリオンに襲われて、殺されそうになる寸前、レイチェルによって救われた。彼女がリオンを銃で撃ち抜いたのだ。
  このレイチェルの行動が、愛するデッカードを守ろうとする意識が強かったのか、それとも同じレプリカントなのにそれに共感・同情しないという性質が強かったせいなのか、という疑問が残る場面だ。
  ディックの原作では、レイチェルはレプリカントとして共感性や同情心を備えていないため、平然とリオンを射殺できたのだが、映画では、より真摯な恋愛感情や迷いが前面に出ているように描かれている。

5 レプリカントの切望

  さてその間に、ロイとプリスは、タイレル社の本部に潜入する手立てを探っていた。死期が迫っている2人は、タイレル博士から寿命を延ばす方法を聞き出すためだった。
  彼らは、タイレル社から発注を受けてレプリカントの部品(身体器官)を製造する工房を探り始めた。
  そして2人は、レプリカントの部品としての眼を製造する職人の老人から、タイレル社のメカニカルエンジニアにして社長のテクニカルアシスタントであるセバスチャンのことを聞き出した。

  ところで、有機的(生物的)肉体をもつヒューマノイドのパーツの生産が、街の職人工房に「下請け」に出されているという設定には、驚いた。

◆驚きの状況設定◆

  映画では、くだんの老職人は生物細胞組織からなる眼球とその周辺部をつくっていた。まるで、まん丸の黄身をつけた「目玉焼き」でもつくるかのように。
  だが眼は、視覚情報の受信と解像、そして脳への送信をおこなう、きわめて精密な器管だ。ゆえに、眼球やその各部組織だけでなく、繊細な筋肉組織=繊維、毛細血管、リンパ管、脳との緊密な交信を担う神経束やシナプス、ニューロンなどが、きわめて精密に配置・配線されなければならない。
  それは、脳の作動プログラムや解像ソフトのインストールとも絡んで、おそらく、レプリカント製造技術の心臓部を構成する。そこまでは、下請け外注には出せないだろう。
  そう考えると、映画の話の状況設定には、1960年代の原作を下敷きに80年代の生化学の知識にもとづいてつくったせいか、ムリがあるようだ。

  器管や組織の部品はつくれても、血管やリンパ管、神経線維・結束などの配置・連絡を達成することは、人類は永遠に不可能だと思われる。脳神経外科のICUでの高度な局所的な手術を、それこそ全身くまなく施すようになり、回収不能なコストになるだろう。
  それは、内部にそういう器管、経路を内蔵する組織=細胞塊を成長させるしかなさそうだ。
  とはいえ、全身の組み立てとなると……やはりムリか?
  生物の体内では、多様な器管の細胞が互いにリンクしながら、エネルギー源や情報信号のやり取りをしながら、増殖と死滅を繰り返して再生産されている。地球上では少なくとも36億年の自然史のすばらしい成果だ。
  そう考えると、レプリカントの神経や血管・リンパ管などがどうなっているかが疑問になる。免疫系などについても。
  映画の話の筋では、生物と同じようにしてあるらしい。

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