セヴァスチャンは、都市の中心部からだいぶ離れた荒廃した場末のビルディングに住んでいた。そのビルは以前は、中国風の豪華コンドミニアムだったらしい。
時代の変化というか価値観の変化の激しさを象徴する建物だ。
不気味に巨大な建物中に、生きている人間はセヴァスチャンだけ。ただし、彼がつくり出した小人アンドロイドや道化人形ロボットたちがあまたうごめいている。
セヴァスチャンは遺伝子の構成に異常があって、通常の人の4倍以上の速さで老化が進むのだという。だから、寿命の長さも通常人の4分の1しかない。
セヴァスチャンはまだ20代で目も心も若いが、顔貌は老人のようだ。背も老化で曲がっているようだ。
ロイとプリスはその建物に侵入した。先導役はプリス。2人はセヴァスチャンの居室に入り込んだ。
かわいい若い女性の登場にセヴァスチャンは喜んだ。仲良くなると、プリスは友達としてロイを紹介した。きわめて狭い世界に孤立して暮らしているセヴァスチャンは、2人を訝しむこともなく受け入れた。
レプリカント2人はジワリジワリとセヴァスチャンに迫り、タイレル社の社長室訪問を強要していく。友情の押し売りのように。
ところで、セヴァスチャンは、社長のタイレル博士とチェスゲイムをずっと続けている。先日は、タイレルの厳しい一手を受けて、局面打開の道を考えあぐねていた。ロイは、起死回生の妙案を教え出した。
それは、社長室へに入り込むための鍵となった。
その深夜、タイレル社の社長室に通じるリフトゲイトにセヴァスチャンがやって来て、社長に面会を求めた。訪問の目的をいぶかしむ社長に、セヴァスチャンは、チェスの次の一手として絶妙の指し手を答えた。それで局面が一気に転換した。
妙手に感心したタイレル博士は、セヴァスチャンを部屋に招き入れた。
セヴァスチャンといっしょにロイとプリスも入り込んだ。
自ら開発した2体のネクサス6型レプリカントを見て、タイレルは懐かしげに挨拶した。ロイも挨拶を返し、そしてタイレルにネクサス6型の寿命の問題について問いかけた。もっと長く生き続ける治療法はないのか、と。
博士は、ちょっと顔を曇らせたが、やがて淡々と説明し始めた。
ネクサス6型の身体器管や細胞については、研究と試験を重ね、改良を繰り返してきたが、つい最近までは根本的問題が解決できなかった。
根本的問題とは、ある一定の時期が来ると、レプリカントの身体細胞の増殖・再生プログラムに異常が発生し、細胞の死滅を補うような増殖・再生ができなくなってしまうということだ。
細胞の再生情報の転写・複製プログラムが狂い始めて、内部に大量のウィルスを生み出してしまうのだ。
このウィルス増殖によって細胞の死滅が加速され、増殖・再生を不可能にしてしまうのだという。この欠陥は、やがて中枢神経・脳や心臓におよび、ネクサス6型レプリカントの身体全体が死滅することになる。
こう説明した博士は「君たちには申し訳ないが、解決策はないのだよ」と打ち明けた。
全能の神ではないタイレル。製造企業経営者としてのタイレルにとっては、しょせん、製品の欠陥の問題でしかないのだ。さほどの悲しみや痛みを感じるわけではない。
反乱を起こして死に物狂いでやっと自らの造物主=タイレル博士のところまでたどり着いて、死から逃れる解決策を求めたのに。ロイとプリスは絶望の淵に沈む。落胆と絶望が怒りに変わった。ロイはタイレルとセヴァスチャンを殺してしまった。
なぜ、私を造ったのか?!
なぜ、人間と同じように感じ、意識し、生存を望み、死を恐れる心と精神をも移植したのか。機械ではなく、生存を追求する「生き物」として造り上げたのか。機械であれば、死を感じることも怖れることもないはずなのに。
映像からは、そんな深い懐疑と怒り、そして絶望が響いてくるようだ。
レプリカントは感情移入・共感ができないということだが、悲惨な彼らの運命にあまり痛みを感じない人間の方こそ、感情移入や想像力の欠如が問題ではなかろうか。
物語は、そんな皮肉な状況設定になっている。