翌早朝から、ターナーは今回の一連の事件がなぜ発生したのかを検討した。事件の原因や背景、首謀者を理解すれば、そこから逃れる道が見出せるからだ。
もともと、ターナーは、一見バラバラに見える事柄の背後に潜む関連性、背景にある状況を読み解く能力にすぐれている。それゆえにこそ、CIAの文献解析要員となったのだ。
文学史協会が襲撃され職員が皆殺しにされたのは、おそらく彼らが知ってはならない(CIAに関連した)機密ないし極秘事項を知ってしまったからだろう。それは何か。それに結びつきそうなことは、ターナーが報告書にまとめた中東の政変に関する問題しかない。
だが、あれはCIA本部から「該当事項なし」という返事を受けたはずだったが…。そういえば、その返信文をまだ詳しく読んでなかった。ターナーはポケットからあの返信文を取り出してみた。
すると、そこにはCIAニューヨーク支局からの返信も添付されていた。そこには、「追加的な検討が必要なのでCIA本部に送付する。送付先は、ウィックス」となっていた。「該当事項なし」という返信はウィックスからだったし、ターナーを銃撃したのも彼だった。
と、そこに郵便配達員が訪れた。キャシーまたは代理人の受領サインが必要だというので、ドアの鍵を開けてなかに入れた。すると、配達員は(消音器つき)マシンガンを構えようとした。その男の強引で殺気だった雰囲気を警戒していたターナーは、お湯が煮立っているポットを投げつけて反撃した。男は銃を取り落とし、すざまじい殴り合い、乱闘になった。
とうとう郵便配達員はマシンガンを取り戻して、むやみに撃ちまくった。ターナーは何とか拳銃を手にして襲撃者を射殺した。こちらの銃は消音器なしだから、轟音が響き渡った。となれば、警察への通報、襲撃事件の公然化は避けられない。
ターナーは郵便配達員の死体を調べた。制服のポケットからホテルの部屋のものらしい鍵を見つけた。調べてみると、ホリデイイン・ホテルの鍵であることがわかった。その817号室、これが暗殺者が滞在する部屋だ。
ところで、ターナーは事件の真相の輪郭をほぼつかんだ。CIAのどこかの部門が秘密裏に中東のある国の政変を画策した。計画はシミュレイション段階から実行段階の直前まで進んでいた。極秘裏に実行しようとする前に、コンドルが察知したため、秘密工作計画の発覚を恐れて文学史協会のメンバーを全員消すことにした、これが大筋らしい。