合州国中央情報局が、非常に広範な知識情報ならびに高度に専門的な学術(科学)の調査研究を組織していることは、よく知られている。こうした組織は、多数の団体や個人を抱え込んでいる。なかには表向きは普通の学術・文化団体や企業だがCIAの非公然の秘密部署となっているものもある。
この映画作品が描いているのは、そんな秘密機関(表向きは学術文化団体の体裁を取り繕っている)に雇われた調査分析要員の1人が、CIAの内部での権力闘争ないし暗闘に巻き込まれ、命を狙われながら逃亡し続け、反撃を試みるという事件だ。
以前、このサイトで取り上げた映画《レッドオクトーバーを追え》の主人公、ジャック・ライアン博士は、CIAに属しながら、公式に海戦史の研究者として活躍していた。このように、第一線の学者として研究をおこなう人材も多いとか。
ターナーは大学卒業後、陸軍の通信工兵隊に勤務したのち、ベル研究所(当時は世界最大のIT会社)の研究エンジニアとなり、今では、ニューヨーク市街にある「文学史協会」に勤めている。
この協会は、表向き学術文化団体だが、じつはCIAの第17課(国際活動に関する情報部門らしい)に属する調査研究機関。世界中の出版物(書籍・新聞・定期刊行物など)のなかから、その背後に隠された世界情勢や国際関係に関する事情を読み取る活動をおこなっている。
協会のなかには、最先端のコンピュータシステムと情報および暗号解析装置が設置されている。自動的にペイジをめくる装置がついたスキャナーが、協会が手に入れたあらゆる出版物を読み取りディジタル化し(OCR)、解析装置はその膨大なデイタ塊からCIAがチェックすべき文字列や単語の組み合わせを析出し、関連づけをおこなう。
そして、協会に雇われた各専門の調査研究員たちが、チェックリストに登録された文字列や単語グループの分析をおこなう。それを、世界中に展開するCIAの作戦や組織・工作班活動と関連づけたり、継続的追跡とか本部の専門部署での監視を提案したりする。
コンピュータを駆使して、世界的規模で、こんな文献の調査・解析・研究システムが、1970年代の前半には組織されていた。アメリカのヘゲモニー装置の奥深さ、用意周到さ、そして「陰険さ」には、驚くほかはない。
フィクションに登場するということは、これに近いものが現に存在していると見ていい。そして、このような情報監視装置は、CIAだけでなく、ペンタゴンでも開発運用されていたであろうことは、想像に難くない。