陰謀の広がり=規模と複雑な絡み合いという点で、「ゴッドファーザーV」は出色だが、そのほかの作品の陰謀のプロットについても見てみよう。
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制作された時代からして、アメリカとソ連との冷戦構造が背景にあって、大統領の権威や政府の威信が航空宇宙政策の成果に依存していたという社会状況を念頭においてほしい。
この作品では、NASAの幹部が「有人衛星の火星着陸成功」という虚偽の大芝居を企み、事実を知る衛星の飛行士たちの抹殺をはかる謀略が描かれている。SFのタッチで語られる政治スリラーだ。
衛星ロケット打ち上げ直前、3人の飛行士たちは衛星から離脱させられ、閉鎖された軍の基地に運ばれた。そこで用意された映画セットのなかで「火星着陸」の映像の撮影を強制された。
アメリカと全世界向けのテレヴィ中継では、宇宙衛星からの電波に割り込ませて、この虚偽の映像が放映された。
ところが、衛星の地球帰還にさいし、制御プログラムのエラーで大気圏突入に失敗したため、衛星は燃え尽き蒸発してしまった。ここで、3人の飛行士たちの生存は、国家とNASAという政府組織の権威のためには、許されないことになった。
危険を察知した飛行士たちは、逃げ出したが、そのうち2人は捕縛されてしまった。残る1人が逃げ延び、マスメディアに事実を公表して、陰謀をあばくための闘いに挑むことになった。
この事件の発端は、現職大統領の再選戦略の一環に、有人衛星の火星着陸・探査の計画が組み入れられたことだった。大統領はNASAの研究試験場を訪れて、NASAの幹部に計画の政治的な意義を強調した。幹部の地位やキャリアを守るためには、計画の頓挫失敗は、許されなくなった。
ところが、ロケット発射日程が迫ると、宇宙衛星の搭乗員生命維持装置の欠陥が発見された。しかしNASA幹部にとっては、すでにホワイトハウスの政治日程は動き出していて、大統領の体面を保つためには変更は不可能に見えた。
で、国家的かつ宇宙的規模での詐欺瞞着(ペテン)が動き出した。
航空宇宙開発というアメリカ国家の科学事業は、何よりも軍事技術の研究開発であって、軍産複合体の世界ヘゲモニーの維持増進のためには不可欠の政策、政治的戦略でもあった。それゆえまた、それを指導する大統領府とその主のリーダーシップや名誉を、誇らかに国内と世界に見せつける政治ショウでもあった。
したがって、巨大な政治機構の歯車もまた、こうした政治のヴェクトル=力学を受けて回ることになる。
一見価値中立的に見える科学研究・実験も、権力装置=政治組織としての国家装置によって方向づけられ、予算や資源を配分される限り、個々の人間や市民を駆り立て、平気で押し潰す危険性を持つということ。このことを、辛辣に描き出したのが、この作品。
「人類の前進」とか「科学の偉大な進歩」とかいうスローガンの裏に潜む、リスクや胡散臭さを衝いた視点がすばらしい。
冷戦時代には、東西のレジーム双方で、立派なスローガンによって押し潰された人びとがいた。こうしたメディア自身による自己批判が映画作品になるだけ、ソ連よりもアメリカの方がずっとましだったのかもしれない。