MI6 沈黙の目撃者 目次
「国益」と謀略のはざまで
見どころ
麻薬密輸ルート
偽装潜入の目的
麻薬貿易と英国エリート
MI6の作戦の綻び
絡み合う策謀
核爆発
心理学からの国家論
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「国益」と謀略のはざまで

  この作品で描かれるのは、ソ連崩壊後に行方不明になった小型核兵器(スーツケイス爆弾)がロシアン・マフィアによって売りさばかれようとした深刻な事態。
  ブリテンの秘密情報局MI6は、これに対処しようとする作戦を発動する。しかし、この作戦を担う情報局エリートは横暴で作戦を暴走させていく。
  ところが、諜報活動を担うスコットランドヤードの担当部門とMI6は、同じ国家の国家装置どうしでありながら、縄張り意識をむき出しにして対立する。事態はいよいよ深刻化していく。
  絶望的な状況のなかでこの作戦のために命をなげうって献身する1人の外交官の孤独な奮闘が描かれる。
  諜報に携わる国家諸装置の運動を、この運動を担う個々の人間の動きや相互関係として描くクールなスタイルが素晴らしい。

  オーストラリアのテレヴィ局が放送した前後編2回のドラマで、制作はブリテンの会社が担当した。原題は2つあって、ブリテンと合衆国では The Diplomat (本来の意味は「外交官」、転じて「謀略家、策略家」という意味にもなる)で配信・リリースされ、オーストラリアでは False Witness (偽りの証人)で「放映されたという。後者の題名は、主人公がブリテンの公安機関によって「虚偽の理由による法廷証人」として証人保護制度でオーストラリアに移住させられたからだろう。
  邦題の「MI6 沈黙の目撃者」は、どういう視点でつけられた題名だろうか。この場合のウィットネスとは、法廷に証人として召喚される人物をいうはずなのだが。

見どころ

  最愛の一人息子を事故で失った外交官が、「せめて自分の命と引き換えにこの世界が変わるなら」とブリテン秘密情報局の核兵器探索・奪回作戦にのめり込んでいく物語。
  「世界の危機を救う」という点では国際諜報作戦の物語だが、この作戦は幾重もの謀略や偽装に覆われ、しかも出世欲に駆られた情報エリートの横暴・暴走によって操られている。
  そのうえ、ブリテンの「国益」と「安全保障」なるものが、警察と情報局などの国家装置ごとに組織に都合よく解釈され、しかも同じ情報局のなかでも部長と作戦主任とでこれまた自己の立場に都合よく色づけされて解釈される。そのため、作戦は軌道をどんどん外れていく。
  まあ、要するに救いのない物語である。

  それにしても、何重にもはりめぐらされた策謀と欺瞞、当局内の主導権争いを、これでもか、これでもかとたたみかけるように描く手法は、ブリテン人ならではのもの。
  そういうプロットを追いかける楽しみはあるが、結末は暗澹たるもの。だが、不思議な魅力がある。
  時代背景は、1990年代前半、ソヴィエト国家秩序の崩壊ののちに混乱したロシアの状況で、今では「そんなこともあったか」というような状況設定。実際に起きた事件をもとにしているという。

  むしろ、この作品は、市民・公衆への情報が閉ざされているブリテン秘密情報局、MI6のありよう、同じくロンドン首都警察庁(警視庁)の公安部門の活動というような、国家装置の闇の部分を「あざとく」描こうとしたのではなかろうか。
  それにしても、「国益 national interst 」とか「国家の安全保障 national security / security of the state 」という――見かけ倒しで空虚な言葉――は、立場により人により、ずいぶんそれぞれの立場に都合よく好き勝手に解釈され、国家装置の内部でさえ意思統一のないまま、国家の権力は安易に発動されるものだ、という現実を描いたというのが私の結論だ。
  という文脈では、辛辣な国家論(国益論)の映像物語版ということになろうか。

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