プルーフ・オブ・マイ・ライフ 目次
家族の絆を考える
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見どころ
闖入者 その1 姉
闖入者 その2 若い数学者
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父の課題を受け継ぐ
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天才数学者としての父の死

  27歳の女性、キャサリンはシカゴに住んでいる。最近、父を失った。
  キャサリンは、もうずい分前から精神に異常をきたしていた父親、ロバートの面倒を見ていた。父親の介護は6年間続いた。

  ロバートは数学の恐るべき天才だった。
  その才能は少年時代から数学界の注目を浴び、二十歳過ぎにはすでに大学の教壇に立っていたという。彼が22歳で発表した論文は世界の数学革命を引き起こした。23歳ですでにシカゴ大学で終身教授資格を与えられていた。
  ところが、その同じ年に彼は精神疾患を発病した。
  普通の人には見えない数学の法則を見ることができるその頭脳は、しかしまた同時に、「現実に存在しない」妄想を抱え込み、彼を錯乱に陥らせた。まさに、天才ゆえの精神異常だったのかもしれない。

  そして7年前、ロバートは大学での研究と指導から引退した。終身教授資格を持っていても、精神異常とか脳機能の衰弱が、研究室への通勤や教育をほぼ完全に不可能にしてしまったのだ。つまり、平常の精神状態でいる時間よりも、妄想や錯乱状態でいる時間の方がずっと長くなってしまった。


  その頃、ロバートの娘キャサリンはノースウェスタン大学大学院の数学科で研究をしていた。もともとはシカゴ大学にいたのだが、父親が教授をしている学部学科に在籍するのがいやで転学したのだ。だが、父親の病状の悪化を見るにつけて、退学して父親の介護・看病をすることにした。
  それはまた、彼女が将来の道の選択に迷っていたときでもあった。

  終身教授資格を持つロバートが大学基金から受け取る年金や報酬はかなりのものだったから、その金で精神病患者を扱う専門施設に預けるという選択肢もあった。相当に手厚いケアを受けられただろう。だが、キャサリンは、見知らぬ人びとのなかでマニュアル化されたケアを受けることに懸念を覚えた。
  精神的疾患というものは、馴染みのない環境におかれると格段に進行する危険性が高いからだ。
  あるいは、同じ数学愛好者としての父に強い親近感があって――もちろん飛び抜けた業績を達成した天才数学者への尊敬もあったから――、自らの手で世話をしたいという願望が強かったのかもしれない。普通は自分の人生をまず第一に考え親子関係についてはドライなアメリカ一般市民が、父親の介護に献身する事情はその辺にあるのではなかろうか。
  もちろん、キャサリンがとりわけ父親に深い愛情を抱くほどに繊細で心やさしいという事情もあっただろうが。

  ところで、ロバートの精神異常は、暴れたり自殺衝動をもたらしたりする性質のものではなかった。彼の精神が、「現実」とは別の世界に入り込んでしまうだけで、その世界で穏やかな振る舞いの日常を送ることになった。
  たとえば、ロバートが数学の研究論文を執筆するといって机に向かったとする。あとでキャサリンが書かれたノートを見てみると、意味不明の混乱した言葉や図絵が書き連ねてあるだけだったりのを発券することになった。

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