プルーフ・オブ・マイ・ライフ 目次
家族の絆を考える
原題と原作について
見どころ
天才数学者としての父の死
闖入者 その1 姉
闖入者 その2 若い数学者
人生の選択をめぐる悩み
再出発へのためらい
父の課題を受け継ぐ
再 出 発
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のどかな信州の旅だより
信州まちあるき

再出発へのためらい

  いずれにせよ、精神病の父=ロバートの介護を6年間も――鬱状態に陥るとかのひどい苦悩・苦痛なしに――続けられたということは、なかば隠遁生活のような暮らしがキャサリンの性格にあっていたということだった。だが、今や父は死去し、キャサリンは自分のための生活を再設計しなければならなくなった。
  彼女は、姉からはニュウヨークへの移住を勧められた。
  そして、ハロルドがロバートの研究成果の整理・集約のために近づいてきた。ハロルドは、キャサリンへの好意――というよりも思慕・恋心――を伝えた。
  ためらいながら、キャサリンはハロルドと親密になっていった。
  まもなく、キャサリンはハロルドにロバートの書斎の机の抽斗ひきだしの鍵を貸し与えた。ただし、許可なしに資料やノートを持ち出さないという約束で。

■研究ノート■
  ところが、ハロルドはキャサリンに内緒でロバートの机からノートを持ち出そうとした。結局、そのことが発覚して、キャサリンとロバートは口論する。
  だがノートには、数論の証明に関して、数学界全体にとっても歴史的に重要な覚書――証明方法への示唆や仮説――が書かれていたことから、その覚書がどれほどの意味があるのかハロルドが吟味・検証することになった。
  私は門外漢だが、ハロルドとキャサリンの会話やハロルドの研究仲間の話からすると、どうやらロバートが方法仮説を記した論証は、素数( prime numbers )に関するものらしい。

素数に関する余談

  ところで、素数理論については古代から話題は尽きないという。
  日本語では「素数」という素っ気ない用語(表記)になってしまうが、ヨーロッパでは古代から特別の意味を与えられ、その研究は重要な意味を持っていた。英語で「プライム・ナンバーズ」つまり「優位なる数、優先されるべき数」という言うくらいなのだから。
  素数というのは、――小中学校で習うように――1とそれ自身のほかには約数をもたない数であって、いわば「孤高の数」である。素数は英語で「プライム・ナンバーズ」――「優位を認められた特別の数」という意味――というくらいで、何やら自然数のうちでも特別の優越的地位を与えられた数なのである。

  ヨーロッパでは古代から数理論、すなわち数の規則・法則や秩序に関する研究は、宇宙の摂理(=神の意思)を解明するという特別の地位を与えられていた。なかでも、孤高の数である素数には、数の進行や序列・秩序のなかでも――神の意思の解明につながる――神秘的で呪物的な特別の意味が込められていると見られてきた。
  数学が近代自然科学の専門分野となってからも、数の規則=秩序のなかで素数が占める独特の意味=地位は変わらなかった。
  2、3、5、7、11、13、17、19、23、・・・という素数の出現は、じつに気まぐれで、とくにこれといったパターンや規則はないように見える。

  17世紀フランスの数学者ピエール・ドゥ・フェルマーによれば、2よりも大きい素数には 4n + 1 4n − 1 の2通りの代数式で表されるものがあって、このうち 4n + 1 で表記される素数は、2つの2乗数の和となる―― 素数を z とすると、 z= x2 + y2 となる―― という。これが「フェルマーの素数定理」だ。この定理を、18世紀のスイス生まれの天才数学者、レオンハルト・オイラーが証明した。
  それにしても、すべての素数をすべて包括する代数式はないようだ。そうすると、あらゆる素数を集約して表記する方程式(どれほど複雑であろうとも)を発見することができれば、それは数学の歴史上でも最大の発見となるだろう。
  代数方程式であらわされるということは、素数の出現の規則=法則が解明されたということになるからだ。

  あるいは、素数は無限に存在するのか、という素朴にして大いなる謎もある。
  仮に誰かが、「これまで発見されたどんな素数よりも大きな、つまり人類史上で最大の素数を発見した」という仮説を示したとしよう。桁でいえば、10の何十乗(あるいは何百乗)以上にもなる数だろう。天文学的に超巨大な数だ。
  すると、世界の数学界は、その仮説を検証することになる。
  とんでもなく巨大なその数を「素因数分解」していって、たしかに「1とその数以外には約数を持たない」という証明ができるかできないかを、吟味・検証するわけだ。兆とか京に達する素数もあるだろうから、それらでも割り切れないことを実証しなければならない。
  今ではスーパコンピュータやクラウド・コンピューティングがあるので、しかも、素因数分解のための「積み上げ算式プログラム」もあるので、ずい分楽になっただろうが、それでも大変な作業が待っている。とはいえ、素数を示す代数式がない以上、計算論証プログラムも完結的なものではなかろう。半永続的に計算を積み上げるアルゴリズムの一種でしかないだろう。

  ただ、その時代ごとに最大の素数を発見=算出した研究者は、それだけでも偉大な業績となるので、いまだにより大きな素数を見つけるための競争は激しいらしい。とくにインターネットを使用した通信で使用する暗証番号の設定では、素数理論と算式が応用されるので、近年ではふたたび素数理論の研究に注目が集まっているらしい。

  話を戻すと、要するに、ロバートは素数に関して何らかの規則や法則を発見し論証する方法仮説を案出したということだろう。
  しかし、実際の証明過程を記述したノートは見つからなかった。

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