映画作品『ワールド・オブ・ライズ』(2008年)は、ブッシュ政権時代のアメリカ中央情報局CIAの対テロ活動の実態を――ヨルダンの諜報機関とのかかわり合い・駆け引きと結びつけて――辛辣な視点から抉り出したもの。原題は
Body of Lies 、意味は「多数の嘘からなる諜報組織」とか「嘘の本体」「嘘まみれの機関」という意味になるだろう。
原作は David Ignatius, Body of Lies, 2007 。わざわざ和製カタカナ英語の「ワールド・オブ・ライズ」とした邦題の意図は、「多数の嘘からなる諜報活動の世界」「嘘まみれの世界」という意味を強調するためのものであろう。
これは、ブッシュ政権が推進するカウンターテロリズム(対抗テロ)の中東における展開を担うCIAの活動が、虚偽と嘘、騙し合いのなかで展開されている実態を描き出した作品だ。
しかも、アメリカ政府の枢要な官僚装置としてのCIAの本部で展開される幹部たちの出世競争や足の引っ張り合いが、もともとかなり歪んでいたカウンターテロリズム政策をさらに捩じれて混乱した状況にしていく様、そして現場の工作員がCIA官僚たちの思惑によってチェスの駒のように翻弄される様子をも皮肉な目で描き出している。
もっとも、CIA要員たちのあいだにも派閥争いがあって、ブッシュ政権の戦争政策の欺瞞を暴こうとする者たちも相当数いたのだが。
そもそもブッシュ政権が発動した中東での戦争は、虚偽の開戦理由で始まったことは、映画『グリーンゾーン』で見たとおりだ。そういう背景と絡みながら、ラングリーのCIA本部の作戦そのものが、平然と虚偽と嘘をごちゃまぜにして世界中にまき散らす情報戦を発動・指揮していた。
そのため、この作品によれば、危険な中東の作戦現場で活動するエイジェントたちさえ、自分たちの周囲で繰り広げられる動きのうち、何が嘘(見せかけ)で何が真実・事実なのか見極めがつかなくなっているというわけだ。
そのような対抗テロの諜報活動の実態を暴き出した秀作である。
この作品が暴きだすのは、真実と嘘、CIA本部の幹部の官僚主義ないしは政治的マヌーバー――CIA内で自分の立場を強めようとする奇襲的に巧妙な立ち回り――と作戦現場のエイジェントの苦悩、ハイテク情報装置と生身の人間、欺瞞と誠意……などなど。
そして、ラングリーの本部の快適なオフィスで繰り広げられるCIA官僚の立ち回りや政治的な駆け引きと、死の危険と隣り合わせの現場の工作員の苦悩と孤独、という2つの極の対比・対照によって、独特の構成になっている。
| 次のページへ |