迷宮のレンブラント 目次
原題
見どころ
あらすじ
贋作の「天才児」
父と息子
画商たちの陰謀
レンブラント作品の追跡
出会い
絵の具と方法論
下準備
画家と鑑定家
恋の火花
父の肖像
奔りだした…筋書き
逃避行
追い詰められたハリー
意外で皮肉な逆転劇
営利事業としての美術

出会い

  ある日ハリーは、パリのカフェテラスでレンブラントの研究書を片手にクロッキー帳にスケッチをしていた。そのとき、彼の背後を通り抜けようとした女性が躓きつまづ、彼の椅子の背にぶつかったために、手にささげていたトレイのカップからコーヒーをクロッキー帳にこぼしてしまった。
  その女性は、30歳前後の美しい女性だった。
  彼女は無礼を詫びながら、一瞬クロッキー帳のデッサンを覗いて、それがレンブラントの作品の一部分の模写だと気づき、同時にハリーの腕前を見抜いた。
  彼女はハリーに画家なのかと尋ねた。ハリーの答えは、「画学生です」だった。
  彼女がハリーの左手の下を見ると、レンブラント作品群についての研究書があった。実はその本は、彼女の父の遺作(遺稿)を彼女が編纂して刊行した大著だった。
  彼女の視線に気づいたハリーは、その著書について辛辣な感想を告げた。
  「多くの資料を渉猟・分析していて博引傍証(博覧強記)かつ膨大な知識を披瀝しているが、要点を的確にとらえていない。要点が明確でない著書は書くべきではない」と。
  彼女はあまりに率直な意見にちょっぴり当惑したが、ハリーの描画能力やデッサンの力量、そしていきなり本質に切り込むセンスの鋭敏さに好感をもったようだ。しばらくして、彼女はテイブルでデッサンに打ち込むハリーに別れを告げて、カフェを後にした。

  それから数日後、ハリー・ドノヴァンはルーヴル美術館を訪ねた。レンブラントが残した肖像画「ある商人の肖像」を見るためだ。
  その作品は、これから「ある男の肖像」を描くうえでは、構図や技法で大いに参考になるもので、いわばモデル作品ともいうべきものだった。
  ところが、その絵のいつもの展示場所に行くと作品は外されていた。案内係員に尋ねると、修復作業に回されたとのことだった。
  ドノヴァンは修復作業室に行ってみたが、そこは許可された関係者以外は入室禁止になっていた。彼はアメリカの大学教授の身分証を係員に見せて、研究のためにぜひ入室させてほしいと頼み込んだが、許されなかった。それでもハリーは何とか修復中の絵を見ようとして、係員に掛け合った。
  そのとき、カフェで出会った女性がやって来て、修復室へのステップを登りかけて、押し問答しているハリーに気づき、声をかけた。ハリーが、ぜひとも「ある商人の肖像」を見たいと希望を告げると、彼女は係員に入室許可しても大丈夫だと言って、ハリーを連れて部屋に入っていった。
  彼女は、マリエケという名前の絵画史専攻の大学院生で、ここには修復作業の研修に来ていると自己紹介した。そして、あのときは「画学生」だと言ったのに、本当は教授なのね、といたずらっぽい言葉をハリーに投げてきた。

  室内には修復に回されたいくつもの絵画が所狭しと置かれ、10人ほどの修復専門の作業者がいた。ハリーが探していた絵は、画架にかけられて修復を待っていた。
  「ある商人の肖像」にじっと見入るハリーに、マリエケは質問した。
  「どう、ご感想は?」
  「まあ、こんなものだろうな。いや、なかなかのもの no bad だね」
  会話を続けようとしたマリエケは、修復専攻の指導教授に呼ばれ、ハリーをその場に残して立ち去った。そして、別の絵画の修復について教授と打ち合わせを始めた。

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