ところで、このスカイネット・システムの研究開発を指揮したのは、皮肉にもケイト・ブリュウスターの父親、ブリュウスター少将だった。
スカイネットは本来、世界的規模での情報システムの麻痺――ウィルス侵入やシステム・エラー――に対抗するためのシステムとして開発されたものだったが、このシステムはいったん起動すると、それ以後はいっさいの人類による情報制御を拒絶する――完全自動のA I――だという。
要するに、ペンタゴンは世界でのアメリカの軍事的最優位を固守するために、コンピュータシステムに人類の運命を全面的に委ねるという方針を採用したわけだ。その時点で、人類の未来はスカイネットの意思に隷属するという意思決定を選択したことになる。
ペンタゴンの命令でスカイネットを起動させたブリュウスター将軍は、暗殺用アンドロイドT−Xの侵入を目の当たりにして、この意思決定が人類にとって致命的な誤りであったことを悟る。
そこで、ケイトとジョンを、迫りくる核戦争から「とりあえず」生き延びさせるために、ネヴァダ砂漠の旧い軍用核シェルターに避難させようとする。2人に人類の未来を託したのだ。
こうして、ジョンとケイトは生き延びることになる。
だが、すべての核保有国の兵器管理システムにスカイネット・ウィルスが侵入した結果、世界中の主要都市と戦略的地域に核弾頭の雨が降り注ぐことになった。しかしながら、そののちに、核の灰が降りしきり、核戦争後の長い寒冷期が訪れるとすれば、ジョンとケイトの「とりあえずの生き残り」に果たして意味があるのだろうか。
そういう状況では、人類どころか、生物種のほとんどが大量絶滅することになる。人類は、もはやAI機械の戦力に抵抗を組織したり、試みたりするための条件を失うほどに打撃を受けているはずだ。
このシリーズの第4編では、スカイネット軍は、わずかに生き残った人類を収容所に収監するための作戦(人類狩り)を展開することになる。人類の抵抗はもはやさしたる成果をあげようもない。
それは、あたかも、ナチス・ドイツ軍が支配地や軍事的占領地でユダヤ人など「悪徳人種」「劣等人種」を狩り立てて強制収容所に集めて虐待と殺戮をおこなった歴史のようだ。
だが、全地球的規模で生態系が破壊されたのちには、生物としての人類がわずかに生き延びても、スカイネットのような地球的規模で組織化されたネットワーク兵器体系にとって、もはや何ほどの痛痒にもなるまい。
ところで、スカイネットは――核兵器を使いたがる傾向を持つという点において――人類の愚かさや邪悪な側面をAIに凝縮させたようなシステムだ。世界全面核戦争によって人類とともに生物の大量絶滅を引き起こすからだ。高度なAIなら、ほかの生物を滅ぼさずに人類を滅ぼすためには多様な手段がありそうなものなのに。
しかし、地球を何千回も滅ぼすだけの核兵器を爆発させれば、ものすごく強力で莫大な放射線(電磁波)を地上に撒き散らすことになる。そうなれば、AIの作動にも相当深甚な打撃をおよぼすはずだ。そうなれば、スカイネット自体も滅びそうなものだと思うのだが……。
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