カプリコーン 1 目次
原題について
見どころ
あらすじ
火星旅行の難しさ
ロケット発射の物理学
オレンジの皮の内側
プロジェクトの政治的背景
直前のアクシデント
政府機関の大ぼら
「SF映画」
謀略の綻び
「幽霊」になった飛行士
燃え尽きた衛星
宇宙飛行士たちの逃亡劇
宇宙飛行士を助けろ
爺さんは歴戦の勇士
幽霊が現れる
作品が問いかけるもの

「火星着陸」の大芝居

  1969年7月、アメリカの有人宇宙船アポロ11号が月の地表に着陸、乗組員は若干の船外活動と岩石、砂礫などの採取をおこない、その後、無事に地球に帰還した。宇宙船内の様子と月面活動の模様は、宇宙中継で地球に送られた。
  この映像をめぐって、あの映像は実際には「映画セット」のなかで撮影されたもので、メイキングだという風評、揣摩臆測が一部に流れた。というのは、大気がないはずの月面の旗竿の合衆国旗が揺れるように見えたからだ。飛行士たちの意図的な演出(遊び)だったらしい。
  私としては、あの映像は「まあ、事実だ」と考えている。少しは疑問を感じているのだが。
  この「カプリコーン1」は、この「当てこすり」邪推を、「火星着陸」というはるかに大きなプロジェクト(フィクション)に当てはめて創作された、政治スリラーだ。

原題について

  原題は Capricorn One(カプリコーン1号、山羊座1号)。1978年公開作品。

  山羊座という星座は、古代バビロニアよりも古くから人類によって想像されていた星座だという。それ以来古代ギリシアま時代まで、姿形は頭に1対の大きな角をはやした怪物で、上(前)半身がヤギで、下(後)半身が魚だとされてきた。
  ギリシア神話ではその山羊神は、(やがて宇宙を支配することになる)ゼウスが乳児だったときに、父親神によって貪り食われそうにになったところを救ったという。
  この物語の寓意は、映画の物語にも込められていそうだ。それも二重の意味で。
  1つには、覇権国家(ゼウスにたとえられる)の威信の危機を救う大芝居を演じる宇宙船という意味合いで。もう1つには、主人公が危うく国家の手によって抹殺されそうになるところを救われる運命という意味合いで。

  占星術ではラテン語のカプリコルヌス( capricornus )を用いるという。黄道12宮(太陽の高度とだいたい同じ位置に見える星座)に属する星座。もともとは「尖った角を持つ羊」(羊という意味のカプリスと尖角という意味のコルヌスからなる合成語)という意味だ。

見どころ
  政権がやたらに国家の威信(国威発揚)や愛国心を訴えるときには、市民民衆はそこに後ろ暗い胡散臭さを感じるべきだ。というのが、この映画の主題かもしれない。

  1970年代後半、アメリカのNASAは有人衛星を火星に送り、地表に着陸させるプロジェクトに挑戦。火星着陸の模様を写す映像は宇宙中継で地球に送られ、合州国は偉大な成功に沸きかえった。
  だが、それは地球上で撮影された映像だった。ロケットの発射は直前に重要な不具合が発覚して有人飛行は中止されたのだ。
  国家の威信のために、乗組員はロケットを離脱し、映画セットのなかで虚偽の映像の撮影への協力を強制され、やがて抹殺の危機に直面した。

  合衆国では、ウォーターゲイト事件やイラク戦争発動などの事実によって、時の政権(大統領府)が面目や権威の保持のためにはどのような謀略や虚偽報道も辞さないという経験則が確かめられた。
  権力維持のためなら、人命は羽毛よりも軽いものとされてしまうようだ。
  そしてその虚偽を隠蔽し人びとに既成事実として強制する仕組みは、「国家機密」とか「国家安全保障」というバリアによって強力に守られている。
  してみれば、国家機密とか愛国心とは、権力の座にいる卑劣漢にすぎない政治家を世論から守るための鎧と考えるが妥当なのだろう。

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