第2次世界戦争後、ラテンアメリカは合州国の「裏庭 backyard 」つまりアメリカの圧倒的な勢力圏と呼ばれてきた。冷戦構造のもとで左翼勢力の浸透や伸長を防ぐために、右翼軍事独裁政権の成立や持続を支援し、左翼勢力の抑圧や暴圧を臆面もなく展開してきた。
「裏庭」とは、表に出せない闇の世界や後ろ暗いできごとが埋められている場所でもある。この作品は、そんな状況下のチリで発生した事件にもとづいて、そんなアメリカ政府の姿勢を問い直すために制作されたと言ってもいいだろう。1982年作品。
原題は Missing (失踪、行方不明)。
原作は、 Thomas Hauser, The Execution of Charles Horman : An American Sacrifice, 1978, also republished under the title of 《Missing》, 1981. (トーマス・ハウザー著『チャールズ・ホーマンの抹殺(処刑):犠牲になったあるアメリカ人』1978年 / 再版『失踪』1981年)。
1974年、チリ共和国でピノチェト将軍主導のクーデタが起こり、アジェンデ政権が倒された。軍事政権の独裁と暴虐のなかで、1人の若いアメリカ人ジャーナリストが失踪した。
しばらくして、ニューヨークの富裕なビズネスマンが、軍事独裁政権下のチリで失踪した息子の行方を探るうちに、アメリカ政府とピノチェト政権との後暗い癒着の気配に気づいていく。
在チリ領事館も駐留アメリカ軍も、息子の失踪をめぐる事情を隠そうとしている。アメリカ政府は南米での権力と権益の確保のために、残忍な軍事政権に協力し、人権の抑圧に手を貸している。
この物語は、チリで失踪した息子の行方を探り続けるアメリカ市民の姿を事実にもとづいて描いたもの。
冷戦体制下でアメリカ政府は、南米での左翼の抑圧や封じ込めと権力と権益の確保のために、軍部によるクーデタを支援したうえに残忍な軍事政権に協力し、人権の抑圧や市民の弾圧に手を貸していた。穏健保守派のアメリカ人が、軍事政権によって残虐に処刑された息子の消息を追って、おぞましい事実に戦慄しながらも立ち向かっていく。
「アメリカの民主主義」を問いかける問題作。こういう作品をつくり出す懐の深さが、アメリカにはある。
合州国ニューヨークの富裕な中産階級に属すビズネスマンが、軍事独裁政権下のチリで失踪した息子チャーリーの行方を追い求めるうちに、アメリカ政府とピノチェト政権との後暗い癒着の気配に気づいていく。在チリ公館(領事館)も駐留アメリカ軍の将校も、息子の失踪をめぐる事情を隠そうとしている。
調査を続けるうちに悲惨な事実を突き止めた。チャーリーはチリ軍部によって虐殺されていた。大使館(駐在武官)はその事実を知っていたらしい。領事や武官は、その事実への接近をむしろ妨害していた。
むしろ、アメリカ政府=軍は、このクーデタをチリでのアメリカの権益を保持するために積極的に誘導・支援したらしい。彼らの言い分は、ラテンアメリカは「合州国の裏庭」だから、「アメリカの権益」は何よりも守られなければならない、個々のアメリカ人の生命や人権よりも優越する、というのだ。
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