クイックシルヴァー 目次
自転車で再出発
原題と原作について
見どころ
あらすじ
自転車大好き!
ジャック・ケイシイ
ツキのない1日の始まり
挫 折 !
打ちのめされた父の姿
新たな生き方を求めて
仕事仲間たち
少女テリ
それでもジャックはジャック
ふとした疑問
自転車の曲乗り
勝負や賭けを避けるジャック
ヴードゥーの死
恋人との別れ
最後の株取引
テリとジプシー
ジャックとジプシーとの対決
再   会
株式市場という理不尽な世界
Office-Townwalkのサイト
信州まちあるき

恋人との別れ

  さて、それまでジャックにはランドという恋人がいた。バレエダンサーの世界での成功と上昇をめざす美しい女性だ。
  ところが、上昇志向の強い彼女から見れば、最近のジャックは何やら期待はずれだ。あれだけ成功していたストックブロウカー業界から逃げ出してしまい、「格付けの低い」自転車配送業なんかでくすぶっている。
  ところが、ジャックとしては、金融業界にいて、ひたすら利ざやと上昇をめざしていた頃の自分を、かなり冷めた目で見ている。もっと地に足が着いた仕事はないかと模索している。
  だから、このところ、2人の間には冷たい隙間風が吹き抜けている。

  ある夜、テリがジャックの家=倉庫にやって来て、今夜1番泊めてくれと頼み込んだ。テリはこれまで女友だちのところに居候していたが、仲たがいを起こして追い出され、行き場を失ったのだ。
  ジャックは最初は反発したが、テリの身が心配になって、泊めることにした。テリはソーファの上で寝袋に包まって眠った。
  ところが、ジャックは株式市況に関するここ数か月間のいろいろな新聞記事の分析に没頭していた。ヴェンチャー企業のなかで業績の割りに株価が低迷しているものを物色して、そのなかから値上がりのタイミングの読めそうな銘柄を探すのだ。   ホットドッグスタンド事業を計画しているヘクターの開業資金を獲得するためだ。
  こんな情報集と分析を、ジャックはもうかれこれ数週間も続けているようだ。


  株式投資で金を稼ぐのは簡単ではない。少なくとも数か月以上の株価と経営業績の相関関係のトレンドを読み込まねばならない。そのうえに、株式市況全般の動きを把握し、その全体トレンドのなかに特定銘柄のトレンドをプロットする。
  特定銘柄のトレンドだけでは値動きを読むことはできない。株式市況全体の動きとして、業績好調のヴェンチャー企業に資金を振り向けようとする兆候が見えなければ、賭けが成功する状況にはならない。だが、誰もがその兆候に気がつかないうちに、それを見抜かねばならない。
  市場の社会心理的な推移(共同主観の変化)の先読みが肝心だ。
  株価の動きと社会心理との連動関係をつかむための分析。
  この動向の綿密なトレンド解析が、イチかバチかの賭けの確率を裏づけるのだ。
  だが、資料分析をしているうちに、ジャックは眠り込んでしまった。
  明け方近くに目覚めたテリは、そっと起き出して、机にうつ伏せに寝入っているジャックに上着をかけてやった。

  翌朝、ジャックの倉庫にランドがやって来た。
  テリは気まずそうな顔を見せたが、ジャックは平然として、2人を互いに紹介した。
「やあ、ランド。テリ、こちらが僕の友だちのランドだ。ランド、彼女が同僚のテリだ」
  ぎこちない挨拶を交わしてから、テリはドアを出て行った。
  室内に入ってきたランドは、ジャックに食ってかかった。
「何よ、あの紹介の仕方は。私ははただの『友だち』!?」
  その後、ランドはジャックとのと仲直りのきっかけを用意した。ジャックはランドがコンパニオンをしている美術ギャラリーを訪ねることになった。そこで、ランドはニューヨークのセレブリティ=ハイソサイェティのメンバーと知り合ったので、ジャックを紹介しようと思ったのだ。
  上昇志向の強いランドは、ジャックにもとのハイソサイェティに戻ってほしいと願っていた。
  けれども、画廊に自転車でやって来たジャックは、ランドの誘いを断ってしまった。彼らが近くに乗りつけた高級車に乗ることを拒んだのだ。
「僕には、自転車がある。置いていけない。車で行くわけには行かないよ」と。
  ジャックはこれ見よがしの高級車を乗り回すサークルには、2度と戻りたくなかった。「地に足がついた生活と職業」を求めていた。「セレブ」であった経験がある者であるぐゆえの別の道の選択オルタネイティヴなのだ。
  これで、ランドとは決定的な別れになってしまった。

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