ビブリア古書堂の… 目次
古書をめぐる謎を追う
見どころ
原作について
夏目漱石「それから」
  五浦大輔
  田中嘉雄
  祖母の秘密
  古書店のアルバイト
小山清「落穂拾ひ…」
  せどり屋の志田
  盗まれた文庫本
  なぜ本を盗んだのか
  奈緒と志田
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田中嘉雄

  自宅に戻った大輔は、第8巻の署名が偽物だったということを母親に報告した。そして、栞子から祖母のことを聞かれても答えられなかったので、母親に祖母のことについて質問した。その結果わかったことは次の通り。

@結婚したのはいつだったのか⇒母の答えは1959年ということだった。
A大輔という名前をつけたのは祖母だったのか⇒その通り。大輔は栞子の推理力に驚いた。
B祖父はどういう人物だったのか⇒だらしがない男でいつも酒びたりで生活力がなかったので、祖母は子育てや生活に苦労していた、というのがは親の記憶だった。祖父は婿養子で結婚直後はまじめに働いていたが、やがて荒れた生活態度になった。それで、祖母は収入を得るために、駅前の実家を改装して定食屋を始めたのだ。
C祖母の知り合いのなかに田中嘉雄という名の人物がいなかったか⇒大輔は先頃の祖母の葬儀の弔問客名簿を見て調べたところ、東京都文京区春日二丁目を住所とする田中嘉雄が焼香に参列していたことが判明した。
D母親は、親戚のなかには誰も田中嘉雄を知る者がいなかったと答えた。
E母の記憶では、田中嘉雄は母と同年代に見える背の高い紳士だった。焼香の後、この家の座敷の鴨井のクッションに手を触れ、懐かしそうに撫でていた。
Fそして、祖母が定食屋を始めると、松竹大船撮影所に勤務する人たちや脚本家などが店に集まるようになって、祖母は彼らと文学談義を楽しんでいたようだ。祖母が漱石全集などの文学書を購入して蔵書として大事にするようになったのは、そういう背景があったらしい。
G結婚前の祖母には恋人がいたのだが、その恋人との結婚を両親に反対されて仕方なく祖父と結婚したらしいということ。

  ところで、鴨井のクッションというのは、大輔のように長身の者が座敷に出入りするときに鴨井に額をぶつけてしまうので、怪我をしないようにゴム製ラバーを貼り付けてあるものだ。その日も、大輔はそのクッションに額をぶつけた。
  そういえば、五浦家の者たちは、大輔と母親を例外として全員が小柄な体格だ。祖父もせの退く男だったし、ときおりこの家にやって来る母の妹、大輔の叔母もかなり小柄だ。
  だが祖母は、この家で大柄な子供や孫たちが暮らすことを想定したのか、鴨井にゴムラバーのクッションを取りつけたようだ。

  翌日、大輔は文京区春日二丁目に行き、田中嘉雄という人物の住居を探し回った。だが、見つからなかった。田中のいう表札の家を何件も訪い、「嘉雄さんという方を知らないか」と尋ねたのだが、知る者はいなかった。
  つい先日葬儀に来たばかりなのに、その後突然に引っ越したのだろうか。

  大輔は、ふたたびビブリア古書堂を訪れて、祖母の結婚は1959年だったこと、田中嘉雄なる人物が祖母の葬儀の弔問客のなかにいたこと、だが記帳された住所に行って探したが田中嘉雄という人物は見つからなかったこと、などを報告した。
  すると栞子は、「その方の住所は文京区春日二丁目だったのでしょう」と指摘した。
  なぜ、そんなことがわかるのだ!? と大輔が驚いていると、
  「漱石の『それから』の主人公である代介の住所が文京区春日二丁目となっているのです。
  その主人公は富裕な家に生まれ育ち、事業で成功したのですが、やがて人妻と深い仲となって、自分の妻や子どもなど家族はもとより、財産や仕事も捨て去ってその人妻と駆け落ちすることになるのです」
  と栞子が説明した。
  そして、「『それから』の主人公の名前が「だいすけ」で、お孫さんであるあなたの名前が「だいすけ」だということから、お祖母様があなたの名前をつけたのではないかと考えたのです」と付け加えた。

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