星の旅人たち 目次
サンティアーゴへの巡礼道
ひとり息子の死
旅 立 ち
巡礼旅の道連れ
異国で見た息子の幻影
ロマ族の父子
ムーシアへの旅
おススメのサイト
人生を省察する映画
サンジャックへの路
阿弥陀堂だより
のどかな信州の旅だより
信州まちあるき

旅 立 ち

  トーマスは、ひとり息子が自分が理解できない理由で死んだことに当惑し、その事実に腹を立てていました。このままでは、息子の死を受け入れることはできません。ダニエルの考えを知らない限り、トーマス自身の人生の次の一歩を踏み出すことはできないということでしょうか。
  で、トーマスは受け取ったバックパックを背負うと杖をついて、コンポステーラへの道を歩き始めました。この行動にいたるまでには、朝から経緯があったようです。
  ところで、それよりも数時間前、町の広場のオープンカフェで、アムステルダムから巡礼にやってきたヨーストという中年男に話しかけられました。
  人懐こそうなこのホラント人はかなり太っているのですが、サンティアーゴまでの長い巡礼旅に挑戦して痩せて体重を減らし、弟の結婚式にもう少しましな姿で参列したいと願っているのです。そして、今の肥満体では、妻と愛を交わすこともできないので、減量したいとも。

  「サンティアーゴ・デ・コンポステーラに巡礼するのかい。そうなら、いっしょに歩かないか」とヨーストは問いかけました。
  ところがトーマスは、「いや、そんなつもりはない。家族のことで用事があってここに来たんだ。巡礼をするつもりはない」とそっけなく答えたのでした。


  辺鄙で険岨な山道だけを選んだような苦難の道を600マイルも歩き続ける連中の気持ちを理解できなかったからです。つまり、息子の生き方や考え方、感じ方を理解できない、ということです。
  しかし、嵐のなかでの息子の死の直前の様子を聞いているうちに、その理不尽と思える死の意味というか、息子ダニエルが巡礼に挑んだ理由=気持ちを理解しなければ、その死という事実を受け入れられないという気持ちになったようです。

  無言でムキになったように歩き始めたトーマスを見て、警察官は親身になって「旅の無事」を祈ってくれました。彼もやはりかつて息子を失っているのです。
  そのためか――息子の死という事実と向き合い受け入れ、心の整理をつけるため――、何年か前にサンティアーゴ・デ・コンポステーラへの巡礼をやり遂げました。そして、70歳になったら、ふたたび巡礼の旅に挑もうと計画しているというのです。
  そんな話も、トーマスの気分を刺激したのかもしれません。

前のページへ || 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界